覚え書:「書評:北朝鮮とは何か 小倉 紀蔵 著」、『東京新聞』2015年5月17日(日)付。

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北朝鮮とは何か 小倉 紀蔵 著  

2015年5月17日

◆歴史的行動としての和解
【評者】丸川哲史=明治大教授
 本書の最大の眼目は、ほとんど一般的には気づかれていない平壌ピョンヤン)宣言(二〇〇二年)の画期性に注目したことにある。その反面として、平壌宣言という歴史の好機を取り逃がした「日本」にとってのマイナス、これを深く考察することも大きな狙いとなっている。そして結論として、著者は、朝鮮半島の北の部分との和解(国交正常化)は日本人にとって最も必要不可欠な歴史的行動となる、と総括している。
 現在の日本の空気に激しく抵触するような問題提起だが、そこには一つの重要な着眼点が孕(はら)まれる。それは、平壌宣言が朝鮮半島全体の関係構造に対する一つの転換を指し示すものだということ、すなわち一九六五年の韓国との間で結ばれた日韓基本条約への対抗性である。実に平壌宣言には、日韓基本条約にはない植民地支配の歴史の清算が謳われている。つまり、日朝国交正常化の次に始まる経済援助という「経済的動機」だけでなく、そこには歴史の解決が目指されているという「道徳的動機」があることだ−ここに儒教研究者として著者の発見がある。
 実際のところ、平壌宣言の内容が履行され国交が正常化されるなら、明らかに一方の日韓基本条約の立脚点の弱さが際立つこととなる。なるほど、著者が指摘するように、朝鮮半島の北の政権と南の政権は、冷戦の名残としての内戦状態の継続を孕みながら、過去の歴史にかかわる道徳的根拠についても競争していることになる。
 さてもう一つ、本書はいわゆる主体(チュチェ)思想の由来に触れつつ、朝鮮半島の北の政権の性格を理解しようと努めているわけだが、その下にまた別様の志向性が蔵されていることが分かる。まさにそれは、「あとがき」に書かれている日本人の「主体」性の話なのだ。国交正常化を計って行くことは「日本にとって、米国追従の戦後の歴史を果敢に変えてゆく大きな転換点となるだろう」と。ここに著者の日本人としての行動=倫理の決意を見る思いがした。
(藤原書店・2808円)
 おぐら・きぞう 1959年生まれ。京都大教授。著書『朱子学化する日本近代』。
◆もう1冊 
 池上彰著『そうだったのか!朝鮮半島』(ホーム社)。日本統治の時代から現代まで、隣国である韓国・北朝鮮の歴史を易しく解説。
    −−「書評:北朝鮮とは何か 小倉 紀蔵 著」、『東京新聞』2015年5月17日(日)付。

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