覚え書:「書評:維新の肖像 安部 龍太郎 著」、『東京新聞』2015年5月17日(日)付。

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維新の肖像 安部 龍太郎 著

2015年5月17日
 
◆不正義に対し貫く義
【評者】末國善己=文芸評論家
 軍国主義へ突き進む日本に警鐘を鳴らした朝河貫一(あさかわかんいち)への注目が高まっている。斬新な歴史解釈に定評のある安部龍太郎の新作は、戊辰戦争佐幕派として戦った宗形幸八郎(むなかたこうはちろう)昌武(後の朝河正澄(まさずみ))と貫一の父子関係を軸に、幕末から満州上海事変に至る近代史を問い直している。
 物語は、アメリカのイェール大学で歴史を教える貫一が、昌武の半生を小説にすることで進んでいく。子供の頃の貫一は、明治維新を因習を打破した偉大な革命と信じていた。だが調べを進めると、倒幕の切っ掛けを作るため御用盗(ごようとう)を組織して幕府を挑発したり、軍を進める口実に天皇を利用したりと汚い手段で政権を奪った薩長に対し、父たちが武士として“義”を貫いたことが分かってくる。
 そして貫一は、自作自演で満州上海事変を起こした軍部のやり方が、薩長の手口と似ていることに気付くのである。
 著者は、先の大戦の原因が、不正義の戦争に勝利した薩長が近代日本を作ったことにあるとした。その先には、歴史の教訓から目を背ける現政権が、長州系の首相の元で、安全保障法制の整備を推し進めている状況への批判も感じられる。
 熱狂に流されやすい日本で、戦争の危険性が高まっている今こそ、政府と国民が一体化して不正義を唱える中、孤立を恐れず“義”の重要性を主張した貫一の精神から、学ぶことは多いのである。
潮出版社・1836円)
 あべ・りゅうたろう 1955年生まれ。作家。著書『下天を謀る』『等伯』など。
◆もう1冊 
 朝河貫一著『日本の禍機』(講談社学術文庫)。歴史学者日露戦争後の日本の行動を批判し、破局を予見した書。
    −−「書評:維新の肖像 安部 龍太郎 著」、『東京新聞』2015年5月17日(日)付。

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