覚え書:「本音のコラム:安全保障の切れ目=山口二郎」、『東京新聞』2015年05月17日(日)付。

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本音のコラム
安全保障の切れ目
山口二郎

 安倍政権は、安全保障に関する法案を閣議決定し、これから国会審議が始まる。すでに多くの論者が指摘している通り、これらの法案は憲法を事実上作り替えるものであり、おざなりな審議で通してはならない。
 私にとって気になるのは、安全保障法制に関する「切れ目のない」という修飾語である。さまざまな事態に、日本の領土領海からはるかかなたの遠方まで、両方の意味で切れ目なく自衛隊を使うための法制度という意味である。切れ目がないということは、空間的にも際限がなくなり、日本の安全に関係なくても政府が影響があると判断すればどんな事態にも自衛隊を出すことを意味する。
 まさに、切れ目のないという言葉は、一九三〇年代の日本が、満州事変から日中戦争へ、そして太平洋戦争へと軍を押し出したという、かつての歴史そのものを表現する修飾語でもある。だからこそ、安全保障には切れ目が必要なのだ。万一日本の安全のために自衛隊を出動させる必要が生じた時には、国会で議論し、国民も考え、覚悟を決めるという機会が必要なのである。また、逆に自衛隊を出す必要がない事態には慎重に見極めることこそ、日本の安全を確保する道となる。
 切れ目のない安全保障法制は、ずるずるべったりで戦争参加に道筋をつけるものである。(法政大教授)
    −−「本音のコラム:安全保障の切れ目=山口二郎」、『東京新聞』2015年05月17日(日)付。

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