覚え書:「メディア時評:「慰安婦」問題への外国研究者声明 詳報を=上智大教授(政治学)・三浦まり」、『毎日新聞』2015年05月16日(土)付。

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メディア時評:「慰安婦」問題への外国研究者声明 詳報を=上智大教授(政治学)・三浦まり
毎日新聞 2015年05月16日 東京朝刊

 安倍晋三首相の米国議会での演説は歓待ムードに包まれ、紛争時の女性の人権保護の重要性を訴えた際には、大きな拍手を浴びたと各紙が報道した。

 ならば、日本が「慰安婦」問題にどう取り組むのかが問われてくる。この点、日本メディアからの追及が甘いように思われる。

 そのようななか、米国の日本研究者ら187人が「日本帝国とその戦場となった地域において、女性たちがその尊厳を奪われたという歴史の事実を変えることはできない」とし、日本政府に過去の植民地支配と侵略の問題に立ち向かうことを呼びかけた。署名には尊敬を集める高名な研究者が多数参加をしており、ワシントンや米国世論への影響力も強い。

 毎日新聞は7日夕刊で報じたが、翌日に朝日新聞は三つの面を用いて詳細に報道し、東京新聞も「こちら特報部」で取り上げた。

 声明の内容も重要であるが、なぜこの声明が、187人もの賛同を得て出されるに至ったのかについての分析も重要である。理由の一つは、外務省が米国の教科書における「慰安婦」問題の記述に対して修正要求をしたことにあり、日本政府の「圧力」は学問の自由の問題として批判を浴びている。

 毎日新聞(4月21日)は米国の慰安婦像設置訴訟を取り上げ、見出しに「『歴史』から『表現の自由』論争に」と掲げた。日本政府の動きが「歴史修正主義」ではないかと米国内で反発を呼び、「慰安婦」問題が表現の自由の問題となっていることを報じている。米国内の動きを追った点はよかったが、そのような取材の蓄積があるならば、今回の声明に関しても、背景を探る記事を載せてほしい。

 ジャパンタイムズ(5月10日)掲載のジェフ・キングストン氏のコラムは、少なからずの日本研究者が日本政府からの介入を経験していることを明らかにしている。

 「慰安婦」問題はそもそも甚大な女性の人権侵害である。日本政府の対応によって、さらに学問の自由の侵害へと問題が広がった。日本の外交が日本の国益を損ねていると外国研究者に指摘される以前に、この事態を詳細に報じる必要性は日本語メディアにこそあるのではないか。メディアの人権感覚が問われている。(東京本社発行紙面を基に論評)

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 ■人物略歴

 ◇みうら・まり

 東京都生まれ。カリフォルニア大学バークリー校で博士号(Ph.D.政治学)取得。専門は現代日本政治、比較福祉国家ジェンダーと政治。
    −−「メディア時評:「慰安婦」問題への外国研究者声明 詳報を=上智大教授(政治学)・三浦まり」、『毎日新聞』2015年05月16日(土)付。

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http://mainichi.jp/shimen/news/20150516ddm005070018000c.html





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