覚え書:「安保法案:閣議決定 全国紙は評価二分 社説・論説比較」、『毎日新聞』2015年05月18日(月)付。

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安保法案:閣議決定 全国紙は評価二分 社説・論説比較
毎日新聞 2015年05月18日 東京朝刊

(写真キャプション)東京で発行される新聞各社の15日朝刊は1面見出しに差が出た=猪飼健史撮影
(写真キャプション)主な新聞安全保障関連法案閣議決定に関する社説・論説の見出し(5月15日朝刊)

 安倍政権が14日、自衛隊の活動を飛躍的に広げる安全保障関連法案を閣議決定した。これについて、多くの新聞が15日朝刊の社説・論説で取り上げた。全国紙では毎日、朝日が法案を批判したのに対し、読売、産経は肯定して評価が二分した。一方、ブロック紙・地方紙は34紙が閣議決定に批判・懸念を示したが、このうち批判を鮮明にしたのは18紙程度。集団的自衛権の行使を容認した昨年7月の閣議決定時の社説は大半が批判的だったことと比べると、論調に温度差が生じているようだ。【青島顕】

 毎日新聞は1面に「安保政策 歴史的転換」の横見出しを掲げ、8カ面を使って報じた。社説は「内容も進め方も問題が多すぎ、とても同意できない」「憲法のもと、日本がとってきた専守防衛に反する」と安倍政権の姿勢を批判した。さらに「後世の歴史の検証に堪える議論をすべきだ」と十分な国会審議を求めた。

 朝日新聞は1面に政治部長の論文を掲載し、9カ面で展開した。社説は「憲法9条に基づく平和国家としてのありようの根本的な変質だ」とし、法案成立の場合について「内閣が政策実現のため憲法を実質的に改めてしまう立憲主義の逆立ちに、国会がお墨付きを与える。立法府の自殺行為だ」と警鐘を鳴らした。

 読売新聞は1面に「日米同盟の抑止力強化」と法案を肯定的に捉えた見出しを掲げ、8カ面で報じた。社説は「日本単独で自国の安全を確保するのがもはや困難な現状を直視せねばならない」と記し、「憲法の平和主義や専守防衛の原則は維持されるうえ、従来の憲法解釈の法理とも整合性が取れている」と評価した。

 産経新聞は「首相『平和へ切れ目ない備え』」と安倍晋三首相の記者会見での発言を1面見出しに採った。社説に相当する「主張」欄でも「抑止力を高めるため、自衛隊の役割を拡大する根拠となる法制の整備が不可欠」と政府・与党の主張を支持する論を展開した。社会面には関連記事を掲載しなかった。

 日本経済新聞は「安保政策 転換点に」と1面見出しで報じたが、社説は法案を取り上げなかった。昨年7月1日に政府が集団的自衛権の行使容認を閣議決定した際は、翌日朝刊の社説で「助け合いで安全保障を固める道へ」と書いていた。(いずれも東京本社発行紙面)

 ◇強い批判回避目立つ ブロック紙・地方紙

 中日新聞(愛知県)・東京新聞の社説は、政府が安全保障法制を「平和安全法制」と言い換えたことについて「欺瞞(ぎまん)」と非難し、「専守防衛の原点に返れ」と訴えた。北海道新聞は「憲法の平和主義を踏み外すもの」と社説冒頭から法案に異議を唱えた。

 神戸新聞は「いったん撤回して国民の声に耳を傾けるべきだ」、広島県中国新聞も「今国会では成立を見送るべきだろう」と踏み込んだ。鹿児島県の南日本新聞は「政権の暴走に抗議する」「平和と語れば語るほど」と2本の社説を掲げた。

 こうした批判的な社説の一方で、16紙程度の社説は法案に疑問や懸念を示しつつ、慎重な国会審議を促した。宮城県河北新報は「想像力の限りを尽くした徹底審議で、慎重な世論に応えるべきだ」、佐賀新聞も「あいまいさを残さず、緻密な議論を重ねるべきだ」と記した。

 販売エリアに基地を抱える神奈川新聞は「地元に暮らしている自衛官や家族の個人にも思いを致す責務がある。新たな役割に不安を感じている人がいることも、忘れてはならないだろう」と書いた。

 昨年7月の集団的自衛権行使容認閣議決定翌日の朝刊で、ブロック紙・地方紙は38紙が批判的な社説を掲載した。それと比べ今回は、懸念を示しながらも強い批判は避ける社が目立つ。

 これに対し、北国新聞(石川県)・富山新聞の社説は「米国を支援する体制を整えることで抑止力は強化されるだろう」「あくまで『受け身』の対応であり、『日本が戦争する国になる』などという批判は当たらない」と法案を支持した。

 15日朝刊で、この問題を社説に取り上げない社もあった。沖縄県沖縄タイムス琉球新報はともに1面、社会面で法案を批判したが、15日が本土復帰記念日に当たったため、社説は復帰43年を取り上げた。
    −−「安保法案:閣議決定 全国紙は評価二分 社説・論説比較」、『毎日新聞』2015年05月18日(月)付。

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http://mainichi.jp/shimen/news/20150518ddm004010005000c.html

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安保法案:閣議決定 全国紙は評価二分 社説・論説比較 識者の話
毎日新聞 2015年05月18日 東京朝刊

 ◇意外感ない論調 小黒純同志社大教授(ジャーナリズム研究)の話

 各社の社説は、それぞれの安全保障に対する論調に沿っていて意外感はなかった。ただ、賛成・反対の立場の新聞ともに突っ込みを入れたくなった。読売や産経は社会面の記事が少ないが、1面で大展開するほど国民生活にとって重要な問題なら、一般市民の声をもっと載せるべきだ。一方、社説で法案を批判した毎日や朝日は、国会での徹底審議を求めているが、今の国会状況では実現しにくい。「廃案にせよ」とか「衆院を解散して国民の信を問え」と踏み込んでもよかったのではないか。

 ◇関与できない地方の不安 清水真・昭和女子大准教授(マスコミュニケーション論)の話

 中央で唱えられる「国益」「安保」、さらに環太平洋パートナーシップ協定(TPP)問題に対し、地方では、自分たちが関与できない遠いところで人生や生活が決められることへの切実な不安が広がっている。地方紙の論調が安保法制に懸念を示すのは、憲法への立ち位置の違いというよりも、こうした不安の表れなのではないか。自衛隊員が生活者として地域の一員となっているところでは、なおさら「丁寧に議論・説明してほしい」という思いを抱くはずだ。
    −−「安保法案:閣議決定 全国紙は評価二分 社説・論説比較 識者の話」、『毎日新聞』2015年05月18日(月)付。

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http://mainichi.jp/shimen/news/20150518ddm004010008000c.html





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