覚え書:「牛と土 福島、3・11その後。 [著] 眞並恭介 [評者]中村和恵(詩人・明治大学教授・比較文学)」、『朝日新聞』2015年05月17日(日)付。

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牛と土 福島、3・11その後。 [著] 眞並恭介
[評者]中村和恵(詩人・明治大学教授・比較文学)  [掲載]2015年05月17日   [ジャンル]社会 
 
■巨大な矛盾に対峙する牛飼い

 食べられない肉牛、売れない乳を出す乳牛に、経済的価値はない。しかしそれでも、牛は生きている。原発事故が起き、政府に安楽死させるよういわれたからといって、大切に飼ってきた牛を無駄に殺せない。そう感じた牛飼いたちは、「なんとしても、被曝(ひばく)した牛が生きていく理由、生きていく意味を見いださなければならない」と考える。生き物について長年考えてきた著者も一緒に考えつづける。殺処分の現場、餓死や野生化の様子、牛とともに動き変化する土壌を見つめ、研究のため、除染のため、農地の除草、里山の荒廃防止と、牛を生かす道を見いだしていく。
 いずれ殺して肉にするはずだった牛だ、結局みんな人間のためではないか、そういうこともできるだろう。しかし牛はモノじゃない。恐れ、泣き、愛し、信頼する、やっぱり家族だと福島の牛飼いは感じるのだ。率直なことばが、巨大な矛盾に対峙(たいじ)する。家畜とは、農業とは、人間とはなんなのだろうと思う。
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 集英社・1620円
    −−「牛と土 福島、3・11その後。 [著] 眞並恭介 [評者]中村和恵(詩人・明治大学教授・比較文学)」、『朝日新聞』2015年05月17日(日)付。

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巨大な矛盾に対峙する牛飼い|好書好日


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