覚え書:「声:未来小説思わせる『平和』の名称」、『朝日新聞』2015年05月22日(金)付。

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未来小説思わせる「平和」の名称
塾講師(神奈川県 70)

 安全保障法制の関連11法案が国会に提出された。政府は「平和安全法制」と呼ぶという。野党議員が「戦争法案」と呼び、自民党が反発した法案だ。同じ法案を「平和」と「戦争」という正反対の言葉で呼び合う事態に、未来小説「1984年」を思い出した。
 英国の作家ジョージ・オーウェル全体主義国家の様相を描き、49年に刊行された。そこでは国家が「戦争は平和である」「自由は屈従である」などのスローガンを掲げている。
 なぜ実態とは反対の言葉を結びつけるのか考えてみた。人は言葉で思考する。美しい言葉で実態を隠せば思考が混乱するかもしれない。平和とは何か、戦争とは何か、合理的に考えるのは難しくなるだろう。このような語法は、ひとびとの判断力を弱めるためなのだ。
 言葉の使い方ひとつで、人々の思考も現実認識も国家が管理・操作する世界。これを小説だけのことと片づけていいだろうか。
 現実の世界でも、言葉には大きな力がある。たかが名称と見過ごしてはいけない。「平和」の裏に何が隠されているのか、しっかり見極めたい。
    −−「声:未来小説思わせる『平和』の名称」、『朝日新聞』2015年05月22日(金)付。

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