覚え書:「書評:地図入門 今尾 恵介 著」、『東京新聞』2015年05月24日(日)付。

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地図入門 今尾 恵介 著

2015年5月24日

 
◆記号の裏に人を読む
【評者】芳賀啓=東京経済大客員教授
 地図に関しては「作る」「使う」「読む」の三つの立場がある。著者の今尾さんも評者も日本地図学会の評議員だが、そこでは国土地理院や測量・地図会社などの「作る」立場の人が多く、次に学校の先生つまり教育の場で「使う」人が多い。つまりプロである。これに対して「読む」をメインとする素人もいるが、どちらかというと少数である。今尾さんは「地図を読む」人の代表で、それも今や少数派の紙の地形図を読むことを本領とする。「小中学生の頃からヒマさえあれば地図を眺め」てきた著者は、「私は基本的に地形図マニアである」と言う。
 地形ブームを反映してか、全六章のうち最後の「地形を味わう」の章に多くページが割かれている。しかし、本書はよくある地形トリビア本ではない。第五章「地図と政治」では旧参謀本部地図の「戦時改描」の愚かさを指摘し、やや長いあとがきのサブタイトルを「地図に騙(だま)されないために」とし、昨今のひとりよがりな「記号化」への誘惑を牽制(けんせい)する。
 地図はたしかにさまざまな記号で作られていると言える。しかしその背後に横たわる現実の地形と人間へのヒューマンな眼差(まなざ)しこそ、この著者を今日価値あらしめている特長であろう。ただし、第三章で「波食台」が「岩石の屑(くず)が海底に堆積して」できたとするのは誤り。波食台は侵食地形です。
 (講談社選書メチエ・1728円)
 いまお・けいすけ 1959年生まれ。地図研究家。著書『地図を探偵する』など。
◆もう1冊 
 堀淳一著『地図のたのしみ・新装新版』(河出書房新社)。内外の地図の魅力、地図の旅や鉄道図を解説した名著。
    −−「書評:地図入門 今尾 恵介 著」、『東京新聞』2015年05月24日(日)付。

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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2015052402000186.html


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