覚え書:「こちら特報部:安保法制国会答弁 二転三転 ご都合答弁 政府本音は白紙委任要求 極まる無責任 論理破綻 意味不明 『改憲』最終目的」、『東京新聞』2015年06月04日(木)付。


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こちら特報部
安保法制国会答弁
二転三転 ご都合答弁 政府本音は白紙委任要求
他国領域で武力行使 「例外」増殖、危険否定
極まる無責任 論理破綻 意味不明 「改憲」最終目的
国民無視 首相、やじ謝罪もおざなり

 この間の安保関連法案の国会質疑を聞いて「分からない」と思った人は少なくないはずだ。まともな反応だ。政府答弁は「ご都合想定」「二転三転」「論理破綻」「意味不明」などのオンパレード。とても国民に理解を求めているとは思えない。むしろ、「分からない」国民からの白紙委任を取り、法案を成立。その後は憲法と合わないという理屈で改憲に突き進む…そんなシナリオが透ける。(篠ケ瀬祐司・林啓太)

 そもそも話が分からないのは、政府の示す想定自体に無理があるからだ。
 集団的自衛権の行使容認を閣議決定するため、安倍首相は昨年五月、記者会見でその趣旨を説明した。
 そこでは赤ちゃんを抱く母親らが米艦に乗る説明図を掲げ、現在の憲法解釈では自衛隊が米艦を守れないとし、必要性を強調した。
 今国会で、首相は「他国の領域で武力行使しない」と言いつつ、例外として中東・ホルムズ海峡での機雷掃海活動を挙げている。
 「受動的、制限的」と説明しているが、米軍の規定では能動的な武力行使だ。
 同志社大内藤正典教授(現代イスラム地域研究)はこうした想定は「あり得ない」と切り捨てる。
 「常識で考えて、避難民は戦火をくぐって米艦に向かう前に、民間機で避難する。機雷も誰がまくのか。海峡を通させないと石油を積み出せない産油国は、自分の首をしめはしない」
 では、なぜそうした想定を提示するのか。
 内藤教授は、国会や国民に「白紙委任させるための単なるアリバイづくり」と批判する。「結局、過去にやったことのある機雷掃海で仕方がないと思わせ、後はいろいろな形で(集団的自衛権を)使おうと考えているのではないか」


 「他国の領域で武力行使をしない」なる説明のメッキもすぐはがれた。
 「例外」という言葉が次第に増え、種々は他国領海で米艦が攻撃された際、日本が反撃する可能性を否定しなくなった。内閣法制局長官憲法解釈で、敵基地攻撃が許されないわけではないとまで答えた。
 転がり続ける答弁の最たる例は、先月二十八日の特別委での岸田文雄外相の答弁だ。外相は軍事的な影響がなければ、自衛隊が他の国の軍を後方支援する重要影響事態とは考えないと答えた。だが、今月一日の答弁では「軍事的な観点を含めて」判断すると、軍事的影響なしでも、後方支援が可能と軌道修正した。
 そうした中、「自衛隊員のリスク(危険)は増えない」という点だけは懸命に繰り返している。首相に至っては「(安保)法整備により、国全体や国民のリスクは下がる」と、露骨に論点をずらした。
 自民党国防族の岩谷毅衆院議員ですら「リスクが増える可能性があるのは事実だ」(一日、特別委)と言明しているが、軍事ジャーナリストの前田哲男氏は4月の新日米防衛協力指針(ガイドライン)に真相が示されているという。
 「例えば、ガイドラインには『米国による戦闘捜索・救難活動への支援』がある。墜落戦闘機のパイロットの捜索などだ。新法は『戦闘』を抜いて「捜索救助活動」とし、非戦闘地域で実施するが、救助を始めていれば、戦闘地域になっても継続できるとある。戦闘現場での活動が続く可能性がある。リスクが増えないなどナンセンスだ」

 議論は論理的であってこそ、初めて成立するが、その土台もぐらぐらだ。例えば「武器使用」と「武力行使」の違いがそうだ。
 先月二十七日の特別委で柿沢未途衆院議員(維新)が「武力の行使と武器の使用の違い」が分からないと詰め寄ると、中谷元・防衛相は、それでは議論にならないとあざけった。
 ただ、柿沢氏の指摘は当然だ。安保法制が成立すれば、自衛隊は海外で後方支援や治安維持活動を担う。そこで「敵」」に襲われることになれば、反撃する。これは事実上の戦闘だ。それでも「武力行使」ではなく「武器使用」扱いだ。
 政府は過去の自衛隊派遣に絡み、武器使用と武力行使の違いを定義した。海外での武力行使憲法九条に牴触するため、自衛隊員が自身を守るためには武器使用は武力行使とは異なるという理屈をひねり出した。
 だが、国連平和維持活動(PKO)の現場では双方に違いはない。まして、相手方からは同一だ。政府の論理がもともと破綻しており、海外活動がエスカレートしても、その理屈を押し通そうとしている。


 質疑が核心に迫ると、意味不明の説明でけむに巻く手法も多用されている。
 首相が先月二十八日の特別委で説明した外国軍の後方支援を許容する重要影響事態の判断基準はこうだ。
 「事態の個別具体的な状況に即して、主に、当事者の意思、能力、事態の発生場所、また事態の規模、様態、推移をはじめ、当該事態に対処する、日米安保条約の目的の達成に寄与する活動を行う米軍、その他の外国の軍隊等が行っている活動の内容等の影響を総合的に考慮して、わが国に戦禍が及ぶ可能性、国民に及ぶ被害等の影響の重要性等から、客観的、合理的に判断することになる」
 何を言っているのか、分かる方がおかしい。ただ、「総合的な考慮」や「客観的、合理的な判断」を政府がすると言っていることは分かる。つまり、全権委任せよと言っているようにしか聞こえず、国民の意志が入るすき間はない。


 安保関連法案が成立すれば、自衛隊員が背負う危険は高まる。派兵され、仮に死傷した場合、あるいは相手を殺し、傷つけた場合、「国会の答弁」と違うといっても政権が責任を検証するとは考えられない。その分、居丈高なのだろう。
 日本も支持した〇三年のイラク戦争では、米英が開戦の根拠としたイラク大量破壊兵器はなかった。英国などは後に責任追及したが、首相は昨年五月、国会で「累次にわたる国連決議に違反をしたのはイラク」と言い放った。
 過激派組織「イスラム国(IS)」による人質事件をめぐる政府対応も当事者の官僚らが「検証」。そもそも、福島原発事故の刑事責任ですら問われない。
 戦死・紛争史研究家の山崎雅弘氏は安倍政権の「強気」について「メディアが報じないので、無理をしても政権が転覆するほどの反発は起こらないと、高をくくっている」とみる。
 ゴールは改憲だが、山崎氏は「国民は改憲インパクトを十分に認識していない。軽い気持ちでゴーサインを出してしまいかねない」と危ぶむ。
 先月二十八日の特別委で、首相は辻元清美衆院議員(民主)に対し、「早く質問しろよ」とやじった。抗議を受けると「時間が来たのに自説を延々と述べて、私に答弁する機会を与えなかった」と釈明した。
 やじが飛んだのは、質疑の想定時間の終了前後だった。民主党関係者は会派の持ち時間の範囲内であり、首相の釈明自体が虚偽だと激しく非難した。
 そもそも、議員は国民を代表して質疑権を持ち、閣僚は答弁の義務を負う関係だ。国民の声は首相の耳には届いていない。
[デスクメモ]幼いころ、工場地帯の一九六〇年代の空気を思い出す。大人たちは政治家や官僚、核心陣営すら信じてはいなかった。赤のれんには、反権力と反権威の雰囲気が色濃かった。戦争体験者が多く、軍国主義者が敗戦後、一転して民主主義を説くという光景も見た。そんな大人たちが消え、怪しい楽隊が再来した。(牧)
    −−「こちら特報部:安保法制国会答弁 二転三転 ご都合答弁 政府本音は白紙委任要求 極まる無責任 論理破綻 意味不明 『改憲』最終目的」、『東京新聞』2015年06月04日(木)付。

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