覚え書:「今週の本棚・新刊:『近世仏教の制度と情報』=朴澤直秀・著」、『毎日新聞』2015年06月14日(日)付。

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今週の本棚・新刊:『近世仏教の制度と情報』=朴澤直秀・著
毎日新聞 2015年06月14日 東京朝刊

 ◇朴澤(ほうざわ)直秀・著

 (吉川弘文館・1万1880円)

 現代仏教といえば一般に、「葬式仏教」という言葉に象徴されるように、思想としての内実を失い形骸(けいがい)化したイメージが想起される。背景に徳川幕府時代、思想の深化より支配の手段として仏教が利用されたとする見方がある。近年この見直しが進む。仏教学者の末木文美士(ふみひこ)氏は『近世の仏教』(吉川弘文館)で思想面の豊かさに光を当てたが、著者は制度面から問い直しを試みる。

 著者が着目するのは、幕府による人々がキリシタンでないことを寺に保証させた寺檀(じだん)制度だ。例えば、夫と妻の寺が異なる「半檀家」が、幕府により禁止され「一家一寺」が強制されたと考えられてきた。しかし必ずしもそれは違法ではなかったとするなど、著者は通説に異議を唱える。幕府による強力な統制という見方は一面的であり、近代日本が近世を批判した立場とも絡むだろう。

 偽情報の流通に関する記述も面白い。キリシタン取り調べ強化を命じる「宗門檀那請合之掟(しゅうもんだんなうけあいのおきて)」なる出所不明の偽法令が流布し、やがて本当の法令と受け取る者も出て、「幕府による統制」の通念形成に一役買った。史料に謙虚に向き合う歴史学者の姿勢が伝わる一冊だ。(鈴)
    −−「今週の本棚・新刊:『近世仏教の制度と情報』=朴澤直秀・著」、『毎日新聞』2015年06月14日(日)付。

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http://mainichi.jp/shimen/news/20150614ddm015070017000c.html


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