覚え書:「今週の本棚・この3冊:沖縄と日米地位協定 坂手洋二・選」、『毎日新聞』2015年06月21日(日)付。

Resize2792

        • -

今週の本棚・この3冊:沖縄と日米地位協定 坂手洋二・選
毎日新聞 2015年06月21日 東京朝刊

 <1>本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」(前泊博盛編著、明田川融、石山永一郎、矢部宏治著/創元社/1620円)

 <2>改憲と国防 混迷する安全保障のゆくえ(柳澤協二、半田滋、屋良朝博著/旬報社/1512円)

 <3>国防政策が生んだ沖縄基地マフィア(平井康嗣、野中大樹著/七つ森書館/1944円)

 『本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」』は、「日米地位協定」こそが日米両国の「属国・宗主国関係」を保証し、それが外交上の圧力から生まれたものではなく、文書にもとづく法的なとり決めであることを検証している。「アメリカ依存の秘密外交」「日本の法令適用から除外されるアメリカ」は「自明」のことだった。

 昨今、政府は憲法に違反する法律を制定し、それをごり押しすることができると信じているようだ。それは、例えば「非核三原則」を持っているはずの日本が、核を保持した米軍の出入りを自由に許してきたような矛盾した営為を自らも堂々と実行することで、「アメリカに満足してもらえる方策」を差し出す、「日米同盟」維持のためのカードとして使われている。

 ここには通常の国家のような「ナショナリズム」は存在しない。外交能力はなく、意思決定をアメリカに委ねている。「戦後レジームからの脱却」を謳(うた)う総理大臣は、「平和主義」のみを捨て去り、「対米従属」は不問としている。

 『改憲と国防 混迷する安全保障のゆくえ』には「日本のアイデンティティは、『米国の同盟国です』だけ」という衝撃的な発言が出てくる。

 アメリカから見れば、「戦争のできる普通の国」でない日本は、「安保」に「ただ乗り」している。リベラル派のアメリカ人でさえ、日本に対して「不公平」の意識を持っているのが実情だ。こうした感覚をよく知るのは、前泊博盛、屋良朝博両氏のような、米軍基地と対峙(たいじ)してきた沖縄のジャーナリストたちである。

 だが、在日米軍基地の脅威にさらされているのは、沖縄だけでなく、日本全土である。アメリカが日米安保憲法に対する優位性を保つことで実現したのは、日本全土を米軍の「潜在的基地」とすることだった。首都圏を含む重要地区で外国の軍隊に自由な駐留を許しておいて、「普通の国」と言えるのかどうか。

 「普天間基地の固定化解消」という紋切り型を繰り返す政府は、沖縄の「地位的優位性」も、海兵隊の「抑止力」も、その論理の破綻を認めようとしない。むしろ米軍の方が「本土移転」に柔軟であったことは事実だった。

 『国防政策が生んだ沖縄基地マフィア』は、「辺野古移設問題」を「地域問題」として、あえて矮小(わいしょう)化して見せている。「秘密は何もない」「沖縄の特殊事情は全て説明できる」という展開に、独自の意義がある。
    −−「今週の本棚・この3冊:沖縄と日米地位協定 坂手洋二・選」、『毎日新聞』2015年06月21日(日)付。

        • -





http://mainichi.jp/shimen/news/20150621ddm015070027000c.html








Resize2797

本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」 (「戦後再発見」双書2)
前泊 博盛 明田川 融 石山 永一郎 矢部 宏治
創元社
売り上げランキング: 9,638

改憲と国防 混迷する安全保障のゆくえ
柳澤協二 半田 滋 屋良朝博
旬報社
売り上げランキング: 551,093

国防政策が生んだ沖縄基地マフィア
平井 康嗣 野中 大樹
七つ森書館
売り上げランキング: 14,366