覚え書:「今週の本棚・本と人:『モンローが死んだ日』 著者・小池真理子さん」、『毎日新聞』2015年06月21日(日)付。

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今週の本棚・本と人:『モンローが死んだ日』 著者・小池真理子さん
毎日新聞 2015年06月21日 東京朝刊

 (毎日新聞出版・1944円)

 ◇女性に切り込むサスペンス 小池真理子(こいけ・まりこ)さん

 『欲望』『虹の彼方(かなた)』など以降、最近の読者にとって小池さんといえば恋愛小説だった。しかし、以前はミステリー、サスペンスを多く手がけていた。本書は久しぶりのサスペンス。じりじりした密室劇を見ているような趣がある。

 「ミステリーを書きながら小説の技法を学んだ。初心に帰ってまた書いてみたいなと思うようになった」。さらに、亡父をモデルに『沈黙のひと』(2012年)を書いたことも大きかった。恋愛小説ではなく一人の男の生と死を描き、味わいのある人間像を浮かび上がらせた。「人間の心の奥深くに隠されている複雑さに、自分はこれほどまでに興味があるのだ」と思い知らされ、「心理サスペンスの王道」を意識した。

 毎週水曜日は横浜から通ってくる恋人の医師高橋と過ごす習慣が続いていた鏡子(きょうこ)。ある水曜日、高橋は姿をみせず、仕事も辞めていた。なぜ何も告げずに姿を消したのか−−。

 鏡子は夫に先立たれ、子供もいない。還暦間近の設定。本書を書き出した時、自身が60歳を迎えた。「中高年の女性作家でも、年を重ねた女性主人公をなかなか登場させない。今の消費社会を考えたら若い層を狙うからです。私自身もそういう選択をしてきました。それを打ち破りたかった。年齢だけでなく、更年期障害、喪失感、孤独など女性が隠し持っていた本音に切り込みました」。一人生きる女の寄る辺なさや鬱屈を、さりげない行動やエピソードで鮮やかに描いてみせる。「エッセーで書くとリアルで生臭くなる。小説で日常の細々したことを書くと、作品に深みを与える」

 頼りなさげな鏡子だが高橋の行方を捜し始め、やがて怒りに突き動かされる過程は手に汗握る。「怒りは悲哀を乗り越える原動力になる。彼女の生命力にスイッチが入った瞬間で、書いていて筆が乗ったところです」。主要な登場人物は限定され、それだけに緻密な心理描写が積み重なる。「書きながら、二人芝居を見ているようでした」

 タイトルにある「モンロー」はマリリン・モンローのことだが、二重写しになった意味に驚かされる。「2015年の日本の社会のどこかにある闇を、うまく書くことができたかな」<文・内藤麻里子 写真・梅村直承>
    −−「今週の本棚・本と人:『モンローが死んだ日』 著者・小池真理子さん」、『毎日新聞』2015年06月21日(日)付。

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モンローが死んだ日
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