覚え書:「インタビュー:沖縄に海兵隊は必要か 元米駐日大使、マイケル・アマコストさん」、『朝日新聞』2015年06月23日(火)付。

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インタビュー:沖縄に海兵隊は必要か 元米駐日大使、マイケル・アマコストさん
2015年06月23日

(写真キャプション)「普天間基地の県内移設がベストの案とは私には思えない」=米カリフォルニア州、真鍋弘樹撮影


 沖縄の米海兵隊普天間飛行場の県内移設計画は、返還合意から20年近くの歳月を経た今も、県民の強い反発を招いている。1980年代末から90年代初めにかけて米国の駐日大使を務め、「ミスター・ガイアツ(外圧)」とも呼ばれたマイケル・アマコスト氏は、日米同盟重視の立場でこう語る。本当に、沖縄に海兵隊は必要なのか、と。

 ――駐日大使在任中、湾岸戦争貿易摩擦で日米関係は様々な課題を抱えていました。今、日本の安倍政権は日米同盟の強化を推し進めていますが、90年代と比べ、今の日米関係をどう見ていますか。

 「貿易摩擦湾岸戦争だけでなく、(米海兵隊員による)沖縄での少女暴行事件、小渕恵三首相とクリントン大統領による同盟の再確認など、90年代の日米関係は浮き沈みが激しかった。比較は難しいですが、今はうまく行っていると思います」

 「任期中、最大の難題は、やはり冷戦終結後初めての紛争である湾岸戦争への対処でした。石油の輸入を依存している中東は日本にとって重要な地域ですが、当時の日本はイラクフセイン政権に対する多国籍軍への協力と、その後の国連平和維持活動(PKO)への参加について、法的枠組み、政治的な合意のどちらも存在していなかった。湾岸戦争を機に、その後、どちらも大きく前に進んだのは良いことだったと考えます」

 ――4月に訪米した安倍晋三首相の上下両院合同会議での演説も、現在の良好な日米関係を反映したものと言えそうですね。

 「素晴らしい演説でした。戦争で犠牲になった米国人に弔意を表し、第2次世界大戦で日本がアジアの苦しみを引き起こしたことを認めた。過去の首相たちの正式な謝罪を引き継いだものと私は思います。最も大切なことは、日米同盟のさらなる強化を望んでいるというメッセージを伝えたことで、今回の訪米の重要な要素でした」

 ――安倍政権による安全保障政策の変更をどう考えますか。

 「集団的自衛権の行使を閣議決定したことはとても評価しています。が、これは決して新しいことではありません。9・11同時多発テロを機に小泉政権によって特別措置法が作られ、米国のみならず他の同盟国へも洋上給油などの後方支援ができるようになった。これは同盟がバランスの取れたものになる先触れでした。日本はさらにグローバルに、遠隔地で活動するようになるということです」

    ■     ■

 ――日米の安保協力といえば、基地の提供があります。しかし、沖縄では過重な負担に県民の反発が強まり、普天間の名護市辺野古への移設は実現していません。

 「太平洋における米国の戦略基盤として、沖縄は重要な場所であり続けました。嘉手納飛行場は米空軍にとっては王冠の宝石のような存在です。一方で、沖縄に駐留する海兵隊が死活的に重要なものだとは私には思えません。嘉手納と同様の決定的な役割を海兵隊が担っているという、納得のいく説明を私は聞いたことがない」

 「この20年、普天間という二流の基地の問題が日米の大きな懸案となっていることに当惑を禁じ得ません。もし事故が起きたら日米同盟に壊滅的な影響を及ぼす。辺野古移設は今のスケジュールでも2020年代までかかるわけで、コストと便益を考えると見合わない。さらに沖縄における反対運動は広範で、選挙区から選ばれた国会議員と知事、名護市長の全員が反対している。これほど高い政治的コストに比べて、海兵隊基地の戦略的な価値はどれほどあるのでしょうか」

 ――一方で、中国が海洋進出を進め、沖縄県尖閣諸島をめぐる緊張もあります。

 「確かに過去10年、中国は多くの予算を海軍に注いできました。中国はグローバル経済大国として世界中から資源を得ており、エネルギー市場へのアクセスを守ろうとするのは当然とも言えます。中国海軍の存在が大きくなるにつれ、アジアでの戦略を調整しなければならない。それが現在、米国と日本が行っていることです」

 「一方で、ワシントンの米議会では国防費を含めた予算の削減が強く求められている。限られた予算でアジア太平洋地域における効果的な戦略を考えれば、空軍と海軍が持つ機動力と即応力こそが最も重視すべきものです。そこで、こんな疑問が浮かぶ。なぜ韓国に米陸軍が駐留しているのに、さらに沖縄に同じ地上軍である海兵隊がいるのか、と。もちろん海兵隊は水陸両用部隊で、海軍の第7艦隊と連携していますが、機動性といえば空海軍が主役です。各軍の間で限られた資源を再配分すれば、アジアでの能力と機能を増大させることができます」

 ――ではなぜ、海兵隊は沖縄に駐留し続けているのでしょうか。

 「ワシントンから離れて13年になりますが、海兵隊が大きな政治力を持っている現実は変わらない。議会から支持を受け続け、古くはマイク・マンスフィールド元駐日大使ら、海兵隊出身の政治家も多くいます。イラクアフガニスタンでも重責を負い、米国民から称賛を受ける仕事をしてきたことも支持されている理由です」

 「とはいえ、予算削減で軍備を減らすという時、個々の部隊が駐留する地元の反対も判断理由になり得る。沖縄の問題は、米国の予算獲得競争とつながっています」

 ――沖縄戦を戦った海兵隊にとり、この島は「血であがなったもの」という意識があるのでは。

 「それが沖縄の海兵隊の空気なのは確かでしょう。でも、もう70年前のことです。現役海兵隊員の大部分は20歳ほどで、沖縄戦についての個人的な記憶はない。空気は今も続いているが、時が経つにつれて薄れていくはずです」

    ■     ■

 ――普天間移設計画は、20年近く宙に浮いています。

 「日本政府では首相が毎年のように代わり、政治的に最優先の課題となりませんでした。近年、中国の台頭と北朝鮮の核開発により、日本国民が国際情勢に危機感を持つようになり、日米同盟の深化を求める気持ちが高まった。それゆえ、安倍首相は長い間、未解決のままだった問題に高い優先度を与え、政治的なコストを費やそうと考えているのでしょう」

 「しかし、この移設計画には実行する価値があるのか、私の疑問は依然として残っています。基地周辺の住民の善意に頼っている現状は不幸なことであり、もし移設を強行すれば、嘉手納のような重要な基地すら住民の反発というリスクにさらす恐れがあります」

 ――将来、沖縄からの海兵隊の削減はあり得ると思いますか。

 「もちろん。普天間に加えて、沖縄の海兵隊駐留そのものを減らす必要があります。グアムへの移設が主に考えられていますが、一時的なオーストラリアへの移転、フィリピンへの訓練移転、ハワイ、米西海岸への帰還などもあり得るでしょう。19年間も解決されなかった問題を解くには、難しい決断も必要です」

 「一方で多くのことが中国と北朝鮮の状況に依存しています。中国がより攻撃的になったり、北朝鮮が執拗(しつよう)に核兵器開発を続けたりすれば、米議会はアジアにおける米軍のプレゼンスを保ち、防衛予算の増加を認めるでしょう。米軍を維持させる『外圧』は今、米国側にあるのではありません」

 ――日米同盟の今後をどう見ていますか。

 「理想の同盟とは、効果的に紛争を抑止するものです。過去に生まれた安全保障における日本の自主規制は、国民の多くが持つ軍事反対の感情に配慮すると同時に、米国による日本の防衛政策への介入を制限するために考えられたのだと思います。今や日本はよりグローバルで、より行動的な手段を取ろうとしており、それは日米のさらなる統合を可能にします。私の任期と比べて多くのことが変化しましたが、改革は続けなければいけない。日本で言う『カイゼン(改善)』が必要なのです」

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 Michael Armacost 1937年生まれ。米国務省の外交官として駐フィリピン大使、国務次官などを経て駐日大使(89〜93年)。現在はスタンフォード大アジア太平洋研究所特別研究員

 ■取材を終えて

 「ミスター・ガイアツ」と呼ばれていたことはご存じですね。そう問うと、にやりと笑った。外圧、つまり「米国の意思」を象徴した元駐日大使の口から沖縄の海兵隊不要論が飛び出した。沖縄に同情的だから、ではない。米軍が地元世論に受け入れられなければ、日米関係が不安定化するという冷徹な視点である。

 日米同盟についての元大使の考えは、あくまで米国の国益に即したものだ。仮に米側が普天間移設を見直すとしても、アマコスト氏のいう「日米のさらなる統合」、同盟強化と米軍の肩代わりを一層求められる可能性は高い。

 それでも注目すべきは、日米同盟を重視し、安倍政権の安保政策を支持する立場からも、沖縄の海兵隊の存在意義を疑問視する見方が米国に存在するということだ。米国の戦略上、必要不可欠でないとしたら、沖縄に基地を押しとどめている本当の理由は何か。

 沖縄の翁長雄志知事は、日米安保の重要性を認めつつ、なぜ沖縄なのかと問う。本当に、それしか選択肢はないのかと。問われているのは私たちだ。

 (ニューヨーク支局長・真鍋弘樹)
    −−「インタビュー:沖縄に海兵隊は必要か 元米駐日大使、マイケル・アマコストさん」、『朝日新聞』2015年06月23日(火)付。

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