拙文:「読書 ポール・ロバーツ(東方雅美訳 神保哲生解説)『「衝動」に支配される社会』ダイヤモンド社 社会制度が自己崩壊する恐れ」、『聖教新聞』2015年06月27日(土)付。

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読書
「衝動」に支配される世界
ポール・ロバーツ著
東方雅美訳 神保哲生解説

社会制度が自己崩壊する恐れ

 『石油の終焉』と『食の終焉』の両著作で現代社会の病理を浮き彫りにしたジャーナリストによる“終焉シリーズの総決算”の一冊だ。
 「欲しい」という衝動にかられ、「社会経済システム全体が自己破壊に向かっている様子」に警鐘をならす現代文明論である。食やエネルギーだけでなく、ライフスタイルの崩壊も全て欲望と執着に起因する、と著者は強調する。
 人間が「欲しい」という衝動に刺激されることは今も昔も変わらない。しかし「インパルス・ソサエティ(衝動に支配される社会)」という現代は、かつての時代とはその容貌を大きく異にする。著者は、経済学の祖アダム・スミス以来の人類の歩みを参照しながら、大量生産の代名詞・T型フォードに注目する。
 市場が飽和状態になれば生産はストップするのが必然だ。しかし、モデルチェンジは市場の常識を覆し、消費者の消費欲を永続的に刺激し続けることに成功する。その結果、自分の欲望を最優先する歪な社会へと変貌してしまうのだ。
 「欲しいもの」を与えることを主眼とした経済は、必要とするものを提供する最適な経済とはならない。欲望の奴隷と化した社会は、暗澹たる未来だが、著者は抵抗の烽火を素描する。
 隠修士の如く「自然に帰れ」と全てを否定する必要はない。スマートフォンを少し切るだけで増大するドーパミンの抑制は可能−−先ずは、そこからだ、と。(氏)
ダイヤモンド社・2592円
    −−「読書 ポール・ロバーツ(東方雅美訳 神保哲生解説)『「衝動」に支配される社会』ダイヤモンド社 社会制度が自己崩壊する恐れ」、『聖教新聞』2015年06月27日(土)付。

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