覚え書:「書評:古代天皇陵の謎を追う 大塚 初重 著」、『東京新聞』2015年07月12日(日)付。

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古代天皇陵の謎を追う 大塚 初重 著

2015年7月12日


宮内庁見解を子細に検討
[評者]土生田純之(はぶたよしゆき)=専修大教授
 本書は考古学界の重鎮大塚初重が、「古代の天皇・皇后陵の中で、宮内庁の治定(じじょう)がかなり考古学研究の結果とは異なり批判される例」を論じた一書である。検討した陵は、神武と欠史八代、応神・仁徳、継体、継体皇后、欽明、崇峻(すしゅん)、斉明、天武・持統の各天皇陵等であるが、他に古墳時代研究における天皇陵の意義や治定に問題のある陵に関する章等も収めている。
 まず神武陵は政治的・社会的な意図に基づいて造営されたものであると指摘する一方、応神・仁徳陵については近年の研究の進展を踏まえ五世紀の大王陵である可能性が高くなったものとみる。次に継体陵は現継体陵が明らかに間違いであり、今城塚(いましろづか)古墳こそが真の継体陵である可能性が高いものと評価した。また同天皇皇后陵についても現在の治定古墳が三世紀に遡上(そじょう)する可能性が高いのに対し、おおむね時代(六世紀)が合致する西山塚古墳を比定する白石太一郎説を紹介するが、直ちに追認することには慎重である。
 欽明陵は現在の治定古墳と五条野丸山古墳を比較検討して、後者を可能性が高いものとみるものの断定は避けている。以上に対して、現崇峻陵は古墳ではないと明確に否定した上で、赤坂天王山古墳こそ真の崇峻陵と考えることが妥当であるとみる。
 斉明陵については牽牛子塚(けんごしづか)古墳と岩屋山(いわややま)古墳の両説がある。著者は前者の説を推しつつも、記録上の造営と修造という用語の意味を考究する必要があると示唆する。最後に天武・持統合葬陵をあげ、現陵を確実な真陵と認定する一方、現陵が治定されるまで二転三転した経緯を詳細に説明している。
 以上慎重な姿勢が目立つが、混乱を招く結果を避け読者も検討に参加できる素材提供を第一としたのであろう。また、随所において『書陵部紀要』の活用が目立つ。陵墓公開運動に積極的な研究者の中には宮内庁の資料を活用しない者も多いが、大塚の示した姿勢こそが陵墓公開への第一歩であろう。
新日本出版社・1620円)
 おおつか・はつしげ 考古学者。著書『邪馬台国をとらえなおす』など。
◆もう1冊
 和田萃(あつむ)著『古代天皇への旅』(吉川弘文館)。万葉集記紀をもとに、雄略から推古まで古代天皇の実像を追って大和・飛鳥を訪ねる。
    −−「書評:古代天皇陵の謎を追う 大塚 初重 著」、『東京新聞』2015年07月12日(日)付。

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