覚え書:「安保法案:立憲主義、危機深く 憲法学者・長谷部恭男氏「国民、気づき始めた」」、『毎日新聞』2015年07月16日(木)付。

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安保法案:立憲主義、危機深く 憲法学者・長谷部恭男氏「国民、気づき始めた」
毎日新聞 2015年07月16日 東京朝刊

(写真キャプション)安全保障関連法案の採決について語る長谷部恭男氏=東京都新宿区の早稲田大で2015年7月14日、森田剛史撮影
安全保障

 先月4日の衆院憲法審査会で、自民党推薦の参考人として安全保障関連法案を違憲だと指摘した憲法学者の長谷部恭男氏(早稲田大大学院教授)が、毎日新聞のインタビューに応じた。「立憲主義の危機が深まった」と安倍政権を批判する一方で、「国民が法案に問題があると気づき始めている。悲観するのはまだ早い」と、今後の国会審議への期待感も語った。【聞き手・川崎桂吾】

 <自民党推薦の参考人でありながら、法案に「ノー」を突きつけて反響を呼び、国民の関心を高めた>

 私はずっと前から、集団的自衛権違憲である、と言い続けてきました。あの場でも同じ主張を繰り返しただけです。参考人として呼ばれた際、自民の推薦とは知らされておらず、正直、あんな騒ぎになるとは予想していませんでした。

 もともと国民の間に「こんな法案を通していいのか」という違和感、エネルギーがたまっていた。そこへ私や他の先生方の指摘があって、「やっぱりそうなのか」と人々が納得したということだと思います。背景があったということです。

 <安倍政権をどう評価すべきか>

 政権の存在自体が、立憲主義を脅かしているのではないでしょうか。政治権力が好き勝手に振る舞えないよう憲法で拘束する、というのが立憲主義の最低限の要請です。安倍政権は憲法改正の要件を緩和しようとし人事権を振りかざし、違憲かどうかのチェック機能を担ってきた内閣法制局を言いなりにさせようとした。つまり、憲法の拘束を外そうという試みです。立憲主義への攻撃と言っていい。その結果、明らかに憲法違反である安保法案が出てきたわけです。

 一連の経緯で印象に残っているのは、「砂川判決」を集団的自衛権が合憲であることの根拠として主張し始めたことです。

 <砂川事件最高裁判決(1959年)は、日本が固有の自衛権を持つことを認めた。これを前提に政府は72年「(個別的自衛権は認められても)他国への武力攻撃を阻止する集団的自衛権憲法違反で認められない」との見解を示した。だが安倍政権は合憲とした>

 全くでたらめな議論です。政府も合憲の根拠付けに困っているのでしょう。

 <今回の強行採決については>

 立憲主義の危機が新たな段階に入った。憲法が無視されるということは、その時々の政権の都合で憲法の意味がくるくる変わるということです。極端な例ですが、安倍政権の閣僚も徴兵制は違憲だと今は言っていますが、これもどうなるか分からない。安保法制が成立し、自衛官のリスクが高まれば成り手は少なくなるでしょう。

 <安全保障についてどう考えるか>

 国民の生命や財産に加え、その国のあり方を守ることも安全保障です。国のあり方を左右するのは憲法です。日本国憲法は、さまざまな価値観を抱く人々が、それでもフェアに社会生活の便宜とコストを分かち合える枠組みを提供しています。そんな憲法を壊して安保法案を成立させようとするのは、本末転倒ではないでしょうか。

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 ■人物略歴

 ◇はせべ・やすお

 1956年、広島市生まれ。東京大学法学部卒業。著書に「憲法と平和を問いなおす」「憲法とは何か」など
    −−「安保法案:立憲主義、危機深く 憲法学者・長谷部恭男氏「国民、気づき始めた」」、『毎日新聞』2015年07月16日(木)付。

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http://mainichi.jp/shimen/news/20150716ddm041010170000c.html





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