覚え書:「今週の本棚・新刊:『隔離の記憶 ハンセン病といのちと希望と』=高木智子・著」、『毎日新聞』2015年07月19日(日)付。
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今週の本棚・新刊:『隔離の記憶 ハンセン病といのちと希望と』=高木智子・著
毎日新聞 2015年07月19日 東京朝刊
(彩流社・2700円)
その男には「孫」が1000人いる。ハンセン病療養所に隔離されて70年。妻と死別し、断種させられて子はいない。けれど施設見学に来た子供たちが「じっちゃん」となついた。背比べの柱のきずが孫の数だ。孫たちが帰ると、独りの部屋で人形に「さびしくないよ」と話しかける。昔は人を蹴っ飛ばして歩く人間だったが、ハンセン病になってみれば、人に生かされていると分かった。
「不幸と思ったことは一度もないよ」。だが過去には幾多の悲しみ、嘆き、苦しみ、恨み、涙があった。彼だけではない。うつるとの誤解から村八分にされ、国策で閉ざされた療養所へ追われた。本名を失い、自殺した大勢の仲間を葬った。子をおろされ、親の死を100日後に知る。もう一つの戦後70年があった。
どっこい彼らは生きた。国に勝訴した闘士の支えは「愛だよ」。半世紀ぶりの帰郷で、病に崩れた顔に満開の笑みを浮かべた男。「散るもよし」と中国へ渡った男は、同じ後遺症の村人を救済に歩いた。本書を読むのに知識は要らない。朝日新聞記者の著者は、かつて絶望に落ちた彼らの笑顔を描き、全ての読者へ「人生は再生できる」と記した。(良)
−−「今週の本棚・新刊:『隔離の記憶 ハンセン病といのちと希望と』=高木智子・著」、『毎日新聞』2015年07月19日(日)付。
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http://mainichi.jp/shimen/news/20150719ddm015070025000c.html