覚え書:「ルポ:東アジア文学フォーラム/下 相互理解深め意見交換 参加者の成果発信に期待」、『毎日新聞』2015年07月23日(木)付夕刊。

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ルポ:東アジア文学フォーラム/下 相互理解深め意見交換 参加者の成果発信に期待
毎日新聞 2015年07月23日 東京夕刊

青島ビール博物館でのイベント「文学の夕べ朗読会」で「その場小説」を披露するいしいしんじさん(ステージ中央)=2015年6月16日、棚部秀行撮影

 中国の北京、青島で6月に開催された第3回東アジア文学フォーラム。日中韓3カ国の文学者約30人が集まり、5日間を共にした。参加者の発言や取材から、戦後70年を迎えるこの年、文学者が国境を超え「一つの場所」に集う意義や今後の展望を探った。【棚部秀行】

 北京のシンポジウムでは、多くの作家が西欧文学からの影響の大きさを語った。作家の茅野裕城子さんは「20世紀、日中韓はそれぞれが欧米についてよく知っていた。一方、互いへの理解は小さかった。21世紀に入り、断絶していた自分たちの歴史を踏まえ、どのような関係を持てばいいかを考えるようになった」と述べた。

 韓国の日本文学研究家、尹相仁(ユンサンイン)さんは「原発の恐怖、資本の支配など3カ国の問題は共通している。北東アジアを一つの地域・社会として考えることで、この会の意義は高まる」と発言。また文芸評論家の崔元植(チェウンシク)さんは「発表を聞いていると、自分の国籍を忘れる瞬間があった。参加した作家には今回の経験をそれぞれの文学に取り込み、痕跡を残してほしい」と期待を込めた。

 課題も見えた。北京での発表は、参加者が延期された3年前の原稿を読み上げるスタイルがほとんど。討論の時間も少なかった。また中国の作家の本音はやはり見えづらかった。

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 日程は4日目から青島に移った。道教の名山・労山見学や朗読会があった。作家のいしいしんじさんは「青島で作家たちの空気が変わった」と指摘する。「北京での議論の一方通行感が、外に開いた感じになった。この流れで朗読会に入り、みんな行って良かったと思えたのでは」。時間を経たこともあって、作家間の距離は確かに縮まったように見えた。

 青島でのイベント「文学の夕べ朗読会」で、いしいさんは即興の小説創作「その場小説」を披露した。真っ暗な洞窟の中に、それぞれの母語しか話せない3人の男を登場させた。日中韓を暗喩する3人の物語は「こんにちは」「ニーハオ」「アニョハセヨ」と3カ国語のあいさつで大団円を迎えた。

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 日本作家団団長の島田雅彦さんはフォーラム終了後、「互いの国のウオッチャーが育ち、友人関係になった作家同士で意見交換ができている。こちら(中国)に来ると、東アジアのなかで日本は、対立ではなく協調と対等の関係を目指すべきだとよく分かる」と語った。

 今回のフォーラムは3年前に延期され、今年に入って急きょホスト国の中国作家協会から実施の提案があったという。結果的に「戦後70年」という区切りの年での開催になった。中国の作家、張〓さんは「節目に3カ国が交流して前に進もうとしている」、文芸評論家の李敬沢さんは「中国の人民が、歴史に沿って前向きな態度を取っていることを示していると思う」などと述べた。

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 中韓の参加者は早くも4回目の文学フォーラムへの期待を表明し、3年後の韓国・ソウルでの開催の計画も伝わってくる。だが、島田さんは「次は手に負えない」との意向を中韓側に伝えたという。韓国には支援する大きな財団があり、中国には作家協会という強固な組織がある。日本は資金、組織の両面で体制が十分ではない。フォーラムの有用性と過去3回の成果を、参加者のそれぞれが表現していくことの必要を改めて感じた。
    −−「ルポ:東アジア文学フォーラム/下 相互理解深め意見交換 参加者の成果発信に期待」、『毎日新聞』2015年07月23日(木)付夕刊。

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http://mainichi.jp/shimen/news/20150723dde014040063000c.html





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