覚え書:「書評:ルポ 生殖ビジネス 日比野 由利 著」、『東京新聞』2015年08月16日(日)付。

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ルポ 生殖ビジネス 日比野 由利 著

2015年8月16日
 
◆葛藤に苦しむ代理母
[評者]油井香代子=ジャーナリスト
 日本で代理母ビジネスが知られるようになったのは一九九〇年代初め。複数の日本人夫婦が民間業者の仲介で、代理母出産を依頼したことが明らかになり、大きな反響を呼んだ。舞台は生殖補助医療の先進国・米国。当然、費用も高額だった。当時、日本では代理母や提供卵子による不妊治療は認められておらず、その間隙(かんげき)を縫って生まれたビジネスだった。
 時は移り、今や生殖医療ビジネスの中心地はタイ、インド、ベトナムなどのアジア新興国となった。タイの代理母に十六人もの子供を産ませた日本人男性の存在が、驚きと共に報じられたのは記憶に新しい。費用の安い新興国への「生殖ツーリズム」が、日本でも静かに着実に広がっている現実を、我々はどこまで把握していただろうか。
 本書は、最近の生殖ビジネスの実態を浮き彫りにした読み応えある力作。二〇一〇年から四年間、インド、タイ、マレーシアなど十二か国で丹念なフィールドワークを行い、代理母のリアルな姿を描き出す。報酬を得たとはいえ、産んだ「我が子」を手放す葛藤や喪失感に多くの女性が苦しむのだ。この二十年間、学会や国は生殖補助医療の法制化やガイドライン作成に度重なる検討を続けてきたが、時代遅れという批判や課題も残る。著者が掬(すく)いあげた代理母の生の声から、この問題を考える糸口が見えてくる。
(朝日選書・1404円)
 ひびの・ゆり 社会学者。編著『グローバル化時代における生殖技術と家族』。
◆もう1冊
 辻村みよ子著『代理母問題を考える』(岩波ジュニア新書)。代理出産をめぐる問題を憲法学や人権論の立場から考察。
    −−「書評:ルポ 生殖ビジネス 日比野 由利 著」、『東京新聞』2015年08月16日(日)付。

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