覚え書:「くらしの明日:私の社会保障論 自己矛盾の安倍政権=湯浅誠」、『毎日新聞』2015年08月19日(水)付。

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くらしの明日:私の社会保障論 自己矛盾の安倍政権=湯浅誠
毎日新聞 2015年08月19日 東京朝刊

 ◇安全保障法制を考える

 本稿のテーマからは逸脱してしまうが、もう一度安全保障法制を取り上げたい。くらしの根本を形作る問題だと思うからだ。

 「法的安定性は関係ない」と言って後に取り消した首相補佐官がいたが、「法律論ばかりしていないで、安全保障環境の変化を直視すべきだ」という論調は、賛成派に根強い。私も「ミサイルが何百発と日本に向けられているのに、何もしなくていいのか」といったことを言われたことがある。

 名実ともに大国化した中国が「力による現状変更」を随所で試みている。放っておけば差し込まれる。日米同盟を強化して抑止することが平和維持につながる。そのためには、自衛隊はもっとアメリカの役に立つ存在になる必要がある。憲法が国土を守ってくれるわけではない。国際環境の現実を冷徹に見るべきだ−−。議論はおおむねこのように展開する。

 ふと疑問に思うのは、その場合、どこまで軍事力を強化すれば抑止できるのだろうということだ。

 中国の国内総生産(GDP)は日本の2倍を超えた。最近成長が鈍化したといっても2015年4−6月期の経済成長率は7%。このままいくと今後10年でGDPは日本の4倍になる計算だ。30年にはアメリカを超えるとも言われている。1000兆円超の借金を抱える日本が、軍事力で張り合える相手とは思えない。

 もちろん「だから日米同盟」なのだろうが、そうすると今度は「どこまでアメリカにつき合えばいいのだろう」という疑問がわく。

 「アメリカの戦争に巻き込まれることは断じてありえない」と首相は言う。たしかにアメリカに付き合うことが日本の国益という理屈なのだから、「(国益に反して)巻き込まれる」ということはそもそもありえない。しかしそれは、戦争に参加しないことを意味しない。

 そもそもなぜ中国の軍事力増大が脅威なのか。

 中国がやっているのは「力による現状変更」で、「法の支配」という普遍的理念を受け入れないから信用できないのだとされる。しかしその理屈こそ、国民の多数が安全保障法制に賛成できない理由なのだと、首相には認識してもらいたい。「力で押し込む中国は信用できないから、違憲の疑いがある法案も力で押し込むのだ」というのは自己矛盾に他ならない。

 戦後70年談話で、首相は「国際秩序への挑戦者」となった過去を反省し、法の支配を重んじることを掲げた。ならば自身が「国内秩序への挑戦者」と見られるような強行採決は厳に慎むべきだ。(社会活動家)

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 ■ことば

 ◇法的安定性

 憲法や法律の解釈をむやみに変えてはいけないという法治国家の原則。時の政権によって法律の解釈が変われば、法律への不信感を与え、社会の混乱を招く。安保法制については、憲法学者の長谷部恭男氏が「法的安定性を揺るがす」、礒崎陽輔首相補佐官が「法的安定性は関係ない」とそれぞれ発言していた。
    −−「くらしの明日:私の社会保障論 自己矛盾の安倍政権=湯浅誠」、『毎日新聞』2015年08月19日(水)付。

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http://mainichi.jp/shimen/news/20150819ddm004070015000c.html


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