覚え書:「書評:歌人の死 福島 泰樹 著」、『東京新聞』2015年08月09日(日)付。

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歌人の死 福島 泰樹 著

2015年8月9日

 
◆戦争、戦後の生を照射
[評者]田中綾=歌人北海学園大教授
 学生時代から作歌を続け、自作歌をミュージシャンと共に朗読する「短歌絶叫コンサート」は三十年目を迎えた。「現代歌人文庫」全巻の編纂(へんさん)も手掛けた著者ゆえに、同志・畏友とも呼ぶべき歌人たちとの熱い交友があった。本書は、寺山修司中井英夫、坪野哲久ら二十九人の歌人の「死」から、逆に鮮烈なるその「生」を照射したエッセー集である。
 一人一人の死と生を語るペン先は熱い。序章を飾る菱川善夫は前衛短歌を立論した評論家であった。その「前衛」を、塚本邦雄の項で「正視しえない現実に抗して、なおかつ直立しようとする強靱(きょうじん)なその精神の反乱」と定義し、「反世界」としての短歌へ読者を誘(いざな)ってやまない。
 その誘う力は、戦時に生まれた著者の、「戦争で生き残った私たちは、生の痛みを知っていたのだ」という、素肌を灼(や)くような背景から生まれたことも、読み過ごしてはならないだろう。
 黒田和美の<陽は昇る狂ひ損ねし日時計の悲しみ照らすために明日も>をはじめ、引用された高橋正子、佐竹彌生(やよい)らの歌はなべて音読がふさわしい。
 巻末に屹立(きつりつ)する阿久根靖夫という詩人は、人知れず短歌も作り、しかも短歌の中では、戦後という「戦争」とただ一人闘っていた−<たたかひは常なき朝の朱の雲のみなぎらふまで鳥みだれ墜つ>。
 戦争と戦後を問いつつ読みたい一冊。
(東洋出版・1944円)
 ふくしま・やすき 1943年生まれ。歌人。著書『福島泰樹全歌集』など。
◆もう1冊 
 正津勉『詩人の死』(東洋出版)。金子みすゞ原民喜ら、夭折・自死・窮死した詩人たちの生と死を語るエッセー。
    −−「書評:歌人の死 福島 泰樹 著」、『東京新聞』2015年08月09日(日)付。

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