覚え書:「今週の本棚・本と人:『ポスト資本主義 科学・人間・社会の未来』 著者・広井良典さん」、『毎日新聞』2015年08月16日(日)付。


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今週の本棚・本と人:『ポスト資本主義 科学・人間・社会の未来』 著者・広井良典さん
毎日新聞 2015年08月16日 東京朝刊

 (岩波新書・886円)

 ◇多元的な視野で描く将来像 広井良典(ひろい・よしのり)さん

 『定常型社会』『コミュニティを問いなおす』などで大きな時代の流れを踏まえ、あるべき社会の将来像を描いてきた。一つの到達点となる今回の本は、経済社会論と科学論を総合する大胆な試みの書でもある。

 「近代科学と資本主義の関係は従来、体系的にはほとんど論じられませんでした。しかし私の中で両者は、ずっと並行して関心の対象になってきました」。公共政策を講じる千葉大教授。学生時代に法律から科学哲学へ専攻を転じた経験を持つ。

 本書はまず資本主義というシステムの本質を、「市場経済プラス限りない拡大・成長」への志向と捉える。このシステムを支えるのは、社会に対する「個人の独立」、人間による「自然支配」の二つ。それぞれ近代科学の「帰納的な合理性」「『法則』の追求」と密接に結びついている。資本主義と科学が手を携えるように発展した理由である。

 ところが、そうした拡大・成長は今や限界に直面し、「人類史的な岐路に差しかかっている」。例えば、先進諸国などでの生産過剰、「生産性が上がれば上がるほど失業が増える」逆説、貧困層の増加=格差拡大といった事態に、いかに対処するか。

 「『無限の電脳空間』と一体化した金融資本主義のように、技術的な操作により、さらなる拡大・成長を求め突破しようとする考え方もあります。アベノミクスもその方向です。これに対し、私は価値観そのものを、個人から共同体や自然の領域へ『着陸』させ、定常化の時代にふさわしい持続可能なものに転換すべきだと考えます」

 とはいえ、問題解決のうえで単に科学を否定するのではない。むしろ「近年の科学の新たな展開自体に、自然の『内発性』や人と人との関係性を重視する要素が含まれている」と見る。多元的な視野のもとで描く福祉政策や社会モデルの提言は説得力がある。

 それにしても、少し前なら「社会主義革命論」と受け取られてもおかしくない書名だが、「定常型社会は、資本主義と社会主義エコロジーが融合した先に見えてくるものです」。脱イデオロギー時代を象徴する資本主義批判であり、若い世代の意識に前向きな変化を見いだしているのも印象的だ。脱「成長」論が盛んな中で、この人のユニークな構想力から目が離せない。<文・大井浩一 写真・小関勉
    −−「今週の本棚・本と人:『ポスト資本主義 科学・人間・社会の未来』 著者・広井良典さん」、『毎日新聞』2015年08月16日(日)付。

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