覚え書:「今週の本棚・新刊:『水曜日の凱歌』=乃南アサ著」、『毎日新聞』2015年08月16日(日)付。
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今週の本棚・新刊:『水曜日の凱歌』=乃南アサ著
毎日新聞 2015年08月16日 東京朝刊
◇『水曜日の凱歌(がいか)』
(新潮社・1944円)
RAA(特殊慰安施設協会)−−。戦争に負けた日本は、進駐軍の米兵相手に性の「防波堤」として女性を差し出した。戦争がもたらしたこの過酷な現実に甘んじなければ生き延びられなかった女性たちがいた。1年に満たない慰安所をめぐる日々を描いた長編小説。
父と兄妹を亡くし、母と2人で戦後を迎えた14歳の鈴子。3月の東京大空襲で何かが切れて、空腹の他はどうでもよくなった。がらんどうになった鈴子の中に「ずるい。大人なんか。人間なんか。/つまらない。何もかも」という言葉が響き続ける。母はRAAで通訳の仕事を始めた。
慰安婦や事務方、RAAが慰安所の他にも営んでいるダンスホールのダンサーなど、さまざまな女性たちが必死に生きる姿をがらんどうの鈴子がみつめる。それゆえ、哀れみや嫌悪のない率直な物語になった。その一方で、戦中、戦後、女性たちが身中にたぎらせていた怒りがしみじみと伝わってくる。
終戦を迎えたのは水曜日。RAAの日々を経て、初の普通選挙の立候補届け出が締め切られたのも水曜日。女性たちが一歩を踏み出す意味をこめたタイトルだ。(無)
−−「今週の本棚・新刊:『水曜日の凱歌』=乃南アサ著」、『毎日新聞』2015年08月16日(日)付。
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http://mainichi.jp/shimen/news/20150816ddm015070105000c.html