覚え書:「書評:ごみと日本人 稲村 光郎 著」、『東京新聞』2015年08月23日(日)付。

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ごみと日本人 稲村 光郎 著

2015年8月23日
 
◆処分と再利用の歴史
[評者]下川耿史=風俗研究家
 東京・世田谷で<ボロ市>が始まったのは十六世紀末の戦国時代、以来四百年以上続く庶民のリサイクル活動だが、明治初期に日本で洋紙の製造がスタートしてからまったく別の意味を持ち始めた。ボロが洋紙の原料となったからだ。量は微々たるものだったが、庶民の日常活動が日本の工業化と結びついたのだ。そして一九〇一(明治三十四)年、兵庫県高砂町に製紙工場ができると、町は日本一のボロの集散地になった。たかがボロが日本の近代化の象徴となったのである。
 本書は江戸期から太平洋戦時までの、し尿や残飯や廃物などの処理が、どのようになされてきたかを歴史の裏話やデータで描いてゆく。例えば東京のし尿やごみは江戸時代、舟で回収され、千葉県の台地で肥料として利用された。当時は舟が今の飯田橋駅辺りまで入ることができた。しかし東京の市街地が拡大するにつれて舟による回収は困難となり、大正時代には川に捨てられて「隅田川の色がし尿の色で変わった」ほどだった。
 廃品回収に対する考えが一変したのは先の戦争時で、日常生活に不可欠の鍋釜までも回収され、腐った魚が配給されても「その部分も配給のうち」として食べることが、国民のあるべき姿とされた。
 ごみ問題は日本人の衛生観や節約意識などを作ると同時に歴史の裏面の実相と直結していることを、本書は教えている。
 (ミネルヴァ書房・2376円)
 いなむら・みつお 1941年生まれ。ごみの処分や再利用についての実務研究者。
◆もう1冊 
 杉本裕明著『ルポにっぽんのごみ』(岩波新書)。ごみ処理とリサイクルをめぐる自治体や業者の取り組みを取材。
    −−「書評:ごみと日本人 稲村 光郎 著」、『東京新聞』2015年08月23日(日)付。

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