覚え書:「書評:山形映画祭を味わう 倉田 剛 著」、『東京新聞』2015年8月23日(日)付。

Resize3635


        • -

山形映画祭を味わう 倉田 剛 著

2015年8月23日
 
◆25年間、一観客として
[評者]四方田犬彦=映画史研究者
 映画について書く人には、研究者と評論家のほかに観客がいる。別に職業を持ちながらも映画が大好きで、入場券を買って映画を見続けている人のことだ。実はこの観客というのが一番怖い。流行とも配給会社の思惑とも関係なく、素直に自分の目の高さから映画を見ているからだ。本書は、そうした「プロの観客」が四半世紀にわたり、ひとつの映画祭に通い詰めて書いた証言の書物である。
 山形国際ドキュメンタリー映画祭は一九八九年に始まった。二年に一度のペースで世界のドキュメンタリー映画を上映し、コンペと共同討議を重ねてきた。今年も十月に世界中の監督たちを招いて開催される予定である。過去の作品を歴史的に検証し、新人監督を育てる。こうした斬新なアイデアが功を奏したのか、日本に多々ある映画祭のなかでも国際的に評価されて現在に至っている。
 著者は一観客として上映につきあい、場合によっては疑問のある作品を撮った監督に意図をただしたりしてきた。本書を読むと、第一回の映画祭に参加したアジアの映画人の困難な立場とその発言が的確に要約されている。公式的な記録ではとてもこうはいくまい。二〇〇七年に自死した監督佐藤真(まこと)に捧(ささ)げられた一章は、とりわけ作家論として秀逸である。
 映画祭がなって二十五年、こうした書物が執筆されるのはうれしいことだ。
 (現代書館 ・ 2160円)
 くらた・たけし 2011年まで高校で国語教師。著書『曽根中生』など。
◆もう1冊 
 佐藤真著『ドキュメンタリー映画の地平 愛蔵版』(凱風社)。現実を撮ることの意味を語る故監督の映像表現論。
    −−「書評:山形映画祭を味わう 倉田 剛 著」、『東京新聞』2015年8月23日(日)付。

        • -




http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2015082302000174.html



Resize3603