覚え書:「読書日記:著者のことば 高澤秀次さん」、『毎日新聞』2015年09月08日(火)付夕刊。

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読書日記:著者のことば 高澤秀次さん
毎日新聞 2015年09月08日 東京夕刊

■戦後思想の「巨人」たち(筑摩書房・1836円)

 ◇時代超えた実践性

 坂口安吾吉本隆明から上野千鶴子さんまで。幅広い世代の評論家、小説家9人を取り上げ、戦後思想の変遷や現在への有用性を論じている。東日本大震災を経て、さらに戦後70年という節目を迎えた現在の視点で、「古き者」と「新しき者」を同列に並べた。

 「彼らを貫くのは思想の『実践性』があることです。つまり時代を超えて、リサイクルできる。例えば安吾の『堕落論』ほど、一般にインパクトを与え続けている評論、エッセーはありません」

 ただ同時に、反原発運動を批判した吉本隆明を厳しく追及している。功績をたたえながらも、前半部では他に江藤淳大西巨人ら、20世紀的な「巨人」への批評が辛辣(しんらつ)だ。「晩年彼らは実践性を欠き、迷走したと感じています。時代との緊張関係を失ったのではないでしょうか」と指摘した。

 一方後半で取り上げる大澤真幸さんら、現在活躍中の思想家に「巨人」という呼称はそぐわない。ここでは、例えば「55年体制」など日本特有の戦後的思考の枠組みから、自由になっていく現役世代の普遍性を描く。「昭和の終焉(しゅうえん)、冷戦崩壊以降、戦後日本的な『巨人』はいなくなりました。並べて論じることにより、『巨人』の死と共に『巨人』の時代が終わったことを告げたかった」と本書に込めた意図を語った。

 副題は「『未来の他者』はどこにいるか」。未来の他者とは、柄谷行人さんが2000年の著書で使った言葉で、我々の死後を生きる「子」の世代、生まれていない世代を指す。

 本書でいう「未来の他者」をこう説明した。「私にとっての未来の他者は過去からもやってくる。日本人を含むアジア全体の戦死者、身近な人の死。未来の他者として彼らを召還することで、過去やこれからを複眼的に考えることができます」

 北海道室蘭市生まれ。中上健次研究の第一人者としても知られ、近年も金石範(キムソクポム)さんや石牟礼道子さんらについての作家・作品論を文芸誌に発表している。

 「安保法制を進める現政権には無力感を抱いていますが、書き手として、今ほどやりがいのある時代はないと思う」<文と写真・棚部秀行>
    −−「読書日記:著者のことば 高澤秀次さん」、『毎日新聞』2015年09月08日(火)付夕刊。

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