覚え書:「書評:台所に敗戦はなかった 魚柄 仁之助 著」、『東京新聞』2015年09月06日(日)付。

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台所に敗戦はなかった 魚柄 仁之助 著

2015年9月6日


◆工夫が生きるレシピ
[評者]岸本葉子=エッセイスト
 昭和の食生活の変遷を検証した。資料は明治から戦後二十年ほどまでの料理本約七百冊、生活雑誌二千冊。大正時代から続く料理屋に生まれた著者には、親やその親世代が身を置いた料理文化を知りたいとの思いもあった。
 出会ったのは、目を疑う珍品の数々だ。サンドイッチの具がこはだ、鰹節(かつおぶし)、漬物? マカロニの味噌鍋(みそなべ)? 当時の誌面の文章や挿絵は抱腹絶倒。それらを集めただけでなく、レシピに従い再現した著者のコメントも面白い。
 サンドイッチは寿司(すし)と、マカロニはうどんと融合し、独自の料理を生みだした。明治以降、外国の食文化が流入したが、昭和の台所で起きていたのは、食の欧米化ならぬ、欧米食の和食化だった。
 その勢いは敗戦でも衰えない。食糧難のときこそむしろ、真骨頂を現した。戦前、節米がはじまると、マカロニとジャガイモを煮崩してお粥(かゆ)に。戦後の米不足では、進駐軍の持ち込んだアメリカ産小麦粉でパンを焼き、サンド寿司を作る。
 そう、台所をあずかる者は、国破れても立ち止まってはいられない。家族の腹をいかに満たし、いかにおいしく食べさせるかに知恵を絞る。登場する多彩な料理は、生きる力の結晶なのだ。
 「サツマイモばっかりだった」という回顧談からは見えてこない市民の姿が、ここにある。
青弓社・1944円)
 うおつか・じんのすけ 食文化研究家。著書『食べ物の声を聴け!』など。
◆もう1冊
 斎藤美奈子著『戦下のレシピ』(岩波現代文庫)。戦時中の婦人雑誌に掲載された料理記事から、戦争の時代を読む。
    −−「書評:台所に敗戦はなかった 魚柄 仁之助 著」、『東京新聞』2015年09月06日(日)付。

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