覚え書:「【書く人】実学偏重、「教養」が危機『いま、大学で何が起こっているのか』 名古屋大准教授 日比 嘉高さん(42)」、『東京新聞』2015年09月06日(日)付。

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【書く人】

実学偏重、「教養」が危機『いま、大学で何が起こっているのか』 名古屋大准教授 日比 嘉高さん(42)

2015年9月6日


 
 文部科学省が国立大に対し、人文社会系と教員養成系の組織の廃止、あるいは他分野への転換を通知して以来、波紋が広がっている。大学が果たすべき役割とは何か。国立/私立、文系/理系を問わず、いわば「実学」が重視される風潮に一石を投じるのが、本書だ。
 文章は平易で読みやすい。研究や日々の生活についてつづっている自身のブログをもとにしているためだ。昨年夏、「特定の学部が狙い撃ちにされる」ことに危機感を覚え、「思い付くまま、勢いで書いた」反論の記事がきっかけとなり、出版につながった。
 専門は日本近現代文学・文化。大学経営や高等教育ではない。「アマチュアだからこそ自由に意見を言える。大学にかかわる当事者が備えるべき理念を示した」。ブログに寄せられた反応の大きさに「多くの人が、こうした流れを『まずい』と直感的に思っている証拠では」と自信を深める。
 「大学は、金もうけの知恵袋や職業訓練学校であってはいけない」と断じる。インターネット上に情報があふれる今、求められるのは、偏りなく評価する能力だ。それはまさに「文系の学問が培ってきた力」と言う。多くの資料を読み解き、調べ、発表する…。課題に直面した際、さまざまな可能性に接近し、自分で考える力こそ、大学で身に付ける「教養」だ。
 大学の「知の蓄え」は社会にとっても有益な財産となる。未来がどう変わるか、何が役に立つかは予測がつかない。例えば、と憲法学を挙げる。「今年初め、研究者が自らの専門分野を評して、『浮世離れ』などと話しているのを耳にした。でも、安全保障法制をめぐる議論で今や知的なよりどころになっています」
 所属する名古屋大では昨春、文学部を取り巻く現状に一矢報いようと、シンポジウムを開いた。その模様をまとめて今年四月に出版された『文学部の逆襲』(塩村耕編、風媒社)も話題だ。
 一方で、大学を変える必要性についても熱く語る。「高いレベルで競い合うことは、これまでと変わらず大事。ただ、得られた学術的な成果は、かみくだいて、どんどん公開していかないと」と気を引き締める。
 「沈黙が最大の敵」。一人の大学人として、声を上げ続けていく。
 ひつじ書房・一六二〇円。 (宮川まどか)
    −−「【書く人】実学偏重、「教養」が危機『いま、大学で何が起こっているのか』 名古屋大准教授 日比 嘉高さん(42)」、『東京新聞』2015年09月06日(日)付。

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いま、大学で何が起こっているのか
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