覚え書:「プロメテウスの罠:百姓飛行士:20 抵抗、フーコー胸に」、『朝日新聞』2015年10月23日(金)付。
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プロメテウスの罠:百姓飛行士:20 抵抗、フーコー胸に
2015年10月23日
いつかまたシイタケ栽培を
(No.1425)
放送局の海外特派員、日本人初の宇宙飛行士、有機栽培のシイタケ農家、「原発難民」……。
さまざまな経験を重ねた秋山豊寛(73)は9月初旬、教授を務める京都造形芸術大の農場にいた。
農具小屋のプレハブで、学生数人と机を囲んで本を読む。いずれも安保法制の問題に関心を持つ。秋山ログイン前の続きの授業を受けていない学生もいる。
テキストはフランスの哲学者、ミシェル・フーコーの著作だ。週1回の勉強会の始まりだった。
フーコーは、権力が人々の「生」に介入、制御しようという「生権力」の考え方を打ち立てた。
「フーコーから、権力とはなにかを学ぼう。安保法制のようなことを認めてしまう仕組みとはなにか、を知らなければいけないんだ」
秋山はそんなふうに話した。
数日が過ぎた9月17日も、学生たちはプレハブにやってきた。夕方から、パソコンのワンセグで参院の国会中継を見続けた。
午後4時半ごろ、委員会審議で委員長の不信任動議が否決された直後、議員らが委員長席に押し寄せる。両手を上げてバンザイするような姿もあった。
「え、なに? どうなったん?」
ざわつく学生たちの傍らで、秋山はアナウンサーが「可決」と言うのを聞いた。
「あの混乱した流れの中で、早々に可決と言い切れるのはなんだ。メディアが不正の歴史をつくり出した瞬間じゃないか」
原発事故が起きれば、住む家を追われる「難民」が生まれる。街のあちこちには防犯カメラがあって、行動がのぞかれている。そして、新たな安保法制……。
「生きづらい社会になってきた。なぜこうも生きづらいのか。その意味を学生たちとフーコーを読み解くことから考えていくよ」
「これからは長期戦。あわてても仕方がない。今までは法案への抗議だったけど、これからは抵抗だ」
法案が可決、成立して迎えた週末、秋山はやはり農場に向かった。
「草刈りをしないと。助手が実家の稲刈りで休みなんだ」
農業の話になると、一瞬笑顔が戻った。
(小滝ちひろ)
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次回から第73シリーズ「僕たちの廃炉」に入ります。
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【プロメテウス】人類に火を与えたギリシャ神話の神族
−−「プロメテウスの罠:百姓飛行士:20 抵抗、フーコー胸に」、『朝日新聞』2015年10月23日(金)付。
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http://www.asahi.com/articles/DA3S12029843.html