覚え書:「被爆の様子を次世代に 『広島の木に会いにいく』 映画監督・石田優子さん(37)」、『東京新聞』2015年10月18日(日)付。

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被爆の様子を次世代に 『広島の木に会いにいく』 映画監督・石田優子さん(37)

2015年10月4日


 漫画『はだしのゲン』の作者、中沢啓治さんに被爆体験を語ってもらうドキュメンタリー映画はだしのゲンが見たヒロシマ」が初監督作品だった。撮影後も、もっと深く広島を取材したい思いが募った。被爆樹木の存在を知り、樹木医の堀口力さんと出会って、一緒に被爆樹木巡りをした。
 驚いた。木は原爆のことをちゃんと語っていた。爆心地側の木肌が今も乱れ、根の張り方も傷んでいる。爆心地の方向を示す傾きや、うねるような枝も−。
 「木の傷に触れ、木を中心に歩くことで、点でしか知らなかった爆心地が面となり、街全体が見えてきたんです」。原爆で人だけでなく動物も、樹木の命も失われた。それでも残った木がある。同じ場所にいた人はどうなったのか、体験者の話も今ならぎりぎり聞ける。戦争とは、原爆とは−、いろいろな視点から見つめたかった。
 高校時代のオーストラリア留学で日本を何も知らないと痛感し、大学生になって友人と広島を旅したのが始まりだった。在学中に通った映画美学校(東京)でドキュメンタリーの魅力にはまり、その道で就職。被爆体験者の記録映像の仕事もあり、広島通いが続いた。
 本書には、二〇一二年から一四年まで三年近くの観察が記される。毎月のように広島を訪ね、木の様子を撮影した映像をじっくり見て書いた。体験者や木の専門家も尋ね、伝える目線は温かく優しい。
 本の執筆は初めてで悪戦苦闘した。だが、やはり子どもたちに伝えたかった。児童漫画にこだわり、最期まで「語ることで原爆と闘うんだ」と語り続けた中沢さんのほか、話を聞いた多くの被爆体験者に「何かの形で恩返ししたかった」と言う。「それが次の世代に伝えることだと思うので」
 木は話さない。木から声を聞くというのは、この場所で何が起きたか、亡くなった人の思い、生き抜いた人の思いに自分が向き合って考えることなんだと気付いていった。福島の木のことも書いた。映画化も進み、来年夏完成を目指す。
 被爆樹木たちは、街中に静かに立ち続ける。囲いで守られている幹もあるが、多くは小さなプレートがかかるだけ。木肌や葉に触れたりすることで、木とはつながることができる。「それぞれの被爆樹木との出会い方をしてもらえたら。近くの木のことも好きになってもらえたらうれしい」
 偕成社・一九四四円。 (野村由美子)
    −−「被爆の様子を次世代に 『広島の木に会いにいく』 映画監督・石田優子さん(37)」、『東京新聞』2015年10月18日(日)付。

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