覚え書:「今週の本棚・新刊:『江戸日本の転換点 水田の激増は何をもたらしたか』=武井弘一・著」、『毎日新聞』2015年10月18日(日)付。

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今週の本棚・新刊:『江戸日本の転換点 水田の激増は何をもたらしたか』=武井弘一・著
毎日新聞 2015年10月18日 東京朝刊

 (NHKブックス・1512円)

 近代工業化以前の日本には「一面に水田の広がる光景」があり、それは持続可能な循環型社会を示すものというイメージがあるが、この本はそのステレオタイプな見方を覆す。

 まず水田中心の農業生産と、これを基盤とする社会が成立したのは17世紀からの100年余りの出来事だったという。新田開発が進められた結果、耕地面積は1・5倍になり、人口は倍増した。一見、自然破壊とは無縁の「環境に優しい」経済成長のようだが、実は持続困難な問題を既にはらんでいた。例えば、山々は肥料や飼料を得るための草山に改造され、それが土砂崩れや洪水の原因となった。病虫害は拡大し、肥料不足も農家を苦しめた。

 深層には矛盾を含んだ「転換」だったというわけだが、こうした陰の部分のみを論じた本ではない。著者は加賀藩篤農家が残した農書『耕稼春秋(こうかしゅんじゅう)』などの史料を駆使し、とりわけ当時の農作業や暮らしが描かれた絵を多数掲載し、深く読み解いている。人々の苦楽の表情や自然との親しい関わりが身近に伝わってくるだけに、18世紀前半に「水田リスク社会」が始まったとする問題提起も説得力がある。(壱)
    −−「今週の本棚・新刊:『江戸日本の転換点 水田の激増は何をもたらしたか』=武井弘一・著」、『毎日新聞』2015年10月18日(日)付。

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http://mainichi.jp/shimen/news/20151018ddm015070014000c.html








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