覚え書:「今週の本棚・本と人:『戦後政治の証言者たち オーラル・ヒストリーを往く』 著者・原彬久さん」、『毎日新聞』2015年10月18日(日)付。

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今週の本棚・本と人:『戦後政治の証言者たち オーラル・ヒストリーを往く』 著者・原彬久さん
毎日新聞 2015年10月18日 東京朝刊


 (岩波書店・3348円)

 ◇知的好奇心 解決するために 原彬久(はら・よしひさ)さん

 この1年、本欄で御厨(みくりや)貴、竹中治堅(はるかた)といったオーラル・ヒストリー(口述史)に果敢に取り組む政治学者の著作を取り上げてきた。本書の著者は、日本の政治学界でそうした手法を初めて実践した孤高の人である。

 その貴重な証言録は岸信介三木武夫福田赳夫(たけお)ら首相経験者をはじめ、外交史に名を刻む東郷文彦ら外務官僚、果ては飛鳥田一雄(いちお)、岡田春夫ら旧社会党の最左翼まで及ぶ。彼らが語るのは敗戦国・日本の“骨格”となった日米安保体制を巡る戦後政治の裏面史であった。

 「1960年の安保改定を真ん中とした前後の時代、文書資料と人物が発する肉声を掛け合わせながら戦後政治の姿を自分なりに描いてみました」

 これまで活用しきれなかった証言を援用し、米ソ冷戦後に様変わりした国際政治に翻弄(ほんろう)される日本政治と、当時と変わらない国会審議の現状の課題をも浮かび上がらせている。

 60年安保時は大学生で、後に学問の道へ進んだ著者はやがて文献中心主義の理論研究に疑問を抱く。「料亭政治」という言葉が示す通り、この国の政(まつりごと)は夜つくられ、密議は墓場まで持っていくとされた。外交交渉などが白日の下にさらされることはあり得なかったのである。

 <大きなブラック・ボックスに隠されている日本の政策決定過程に光を当てるために>米国での研究生活で知ったオーラル・ヒストリーを活用できないか−−こう考えた著者は80年秋以降、岸政権の安保改定に関わった人々へのインタビューを開始。それは40代の全てをささげて88年に刊行にこぎつけた大著『戦後日本と国際政治−−安保改定の政治力学』(中央公論社)に結実した。知的興奮と言えばいいだろうか、今も同書を読んだ時の驚きを私は忘れない。その後も『岸信介証言録』(毎日新聞社)などを刊行、現在の安倍政権の政策過程を考察するうえで欠かせない一級の史料となっている。

 「私の学問は自問自答の歴史です。政治は相互作用の産物ですから一部を知れば、分からないことが必ず出てくる。知的好奇心を解決するために、対象者を広げて話を聞く。当然の行為なのです」

 その熱意が権力者たちの堅い口を開かせたのだろう。<文・中澤雄大 写真・望月亮一>
    −−「今週の本棚・本と人:『戦後政治の証言者たち オーラル・ヒストリーを往く』 著者・原彬久さん」、『毎日新聞』2015年10月18日(日)付。

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