覚え書:「特集ワイド:いかがなものか 安保法、TPP、内閣改造…でも 臨時国会見送り 「丁寧な説明」どこへ」、『毎日新聞』2015年10月27日(火)付夕刊。

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特集ワイド:いかがなものか 安保法、TPP、内閣改造…でも 臨時国会見送り 「丁寧な説明」どこへ
毎日新聞 2015年10月27日 東京夕刊

(写真キャプション)内閣改造を終え、記者会見に臨む安倍晋三首相。国民に約束した「丁寧な説明」はどうするのか=首相官邸で7日夜
 
 まさか自分の発言を忘れたわけではないだろう。安全保障関連法が成立した先の通常国会終了後、安倍晋三首相は「国民の皆様に丁寧な説明を続けたい」などと語ったが、説明の場である秋の臨時国会の開催を見送ろうとしているのだ。安保法制のみならず、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の大筋合意、内閣改造による新閣僚と首相の所信表明など、国会で議論すべき案件は山積している。なぜ、臨時国会を開かないのか。【江畑佳明】

 政府のスポークスマンである菅義偉官房長官の日々の記者会見から、臨時国会に関する発言を拾ってみると……。

 「首相の外交日程を優先しなければならない」「先の通常国会を戦後最長の95日間延長した」(16日)

 「臨時国会とは必ずしもやるべきだと決まっているわけではない。通常国会と違って、(審議すべき)法案が必要であれば行うもの」「かつて2回、同じような案件で開かなかった例もある」(20日)

 菅官房長官は「与党と相談して最終決定したい」とも述べているが、一連の発言を素直に聞く限り消極姿勢は明白だ。首相の外交は確かに重要案件だが、先の通常国会の期間中の4月に安倍首相は訪米した。要はスケジュール調整をすればいいだけで、臨時国会を開かない理由にはならないはずだ。

 ではなぜ、臨時国会にこうも後ろ向きなのか。政界取材が長いジャーナリストの鈴木哲夫さんは「開かないほうが得だ、と考えているからです。それしかありません」とバッサリと切り捨てた上で「首相の外遊日程を理由にしていますが、それは本音ではありません」と裏事情を明かす。「今春あたりから、安倍政権は安保関連法の審議による支持率下落を見越し、通常国会後の秋に行う反転策のシナリオを描いていたのです」

 そのシナリオとは、(1)外交(2)内閣改造(3)経済政策の3本柱で支持率を回復させ、来夏の参院選に備える−−というものだ。しかし「目算が狂った」(鈴木さん)。「安保法制に対する国民の反発が予想以上に大きく、落ち込んだ内閣支持率は30−40%台と回復しきってはいない。乾坤一擲(けんこんいってき)の『新三本の矢』も内容が薄く、改造内閣では早くも大臣の不祥事が取りざたされている始末。臨時国会を開けば追及されるだけで、メリットは何もありません」。釈明に追われそうな新閣僚は、森山裕農相▽馳浩文部科学相▽島尻安伊子沖縄・北方担当相▽高木毅復興相の4人もいる。

 ただ、鈴木さんは「国会の会期を政局に利用した例は民主党政権でもあった」と付け加える。2010年6月、通常国会の会期末間際に、自身の金銭問題などで支持率が下がった鳩山由紀夫首相が内閣総辞職した。交代した菅直人内閣は内閣支持率がV字回復したため、会期延長せずにこの人気を保ったまま翌月に控えた参院選に入ろうとした。ところがこの姿勢にかみついたのが、当時野党だった自民党だ。「自民党は新内閣が発足したのに会期延長しないのは国会軽視だ、権力者のおごりだ、などと散々攻撃しました。ところが今回、立場が変われば同じことをしている。ご都合主義も甚だしい」と痛烈に批判する。

 鈴木さんは「『臨時国会でどんなことでも審議に応じます』というのが巨大与党を持つ政権の態度でしょう。この逃げの姿勢はまるで弱小政権の末期のようです」と厳しく指摘した。

 ◇理由にならぬ「内閣の事情」

 戦後の国会開会期間を調べると、9−11月に臨時国会を召集するのが恒例となっている。これまでは年初から150日間開かれる通常国会プラス特別国会、臨時国会などで、その時々の課題を議論してきた。このまま臨時国会が開かれない事態となれば、今年1年間で開かれたのは通常国会だけとなり、年間通じて通常国会しか開かれないのは戦後ほとんど例がない異常事態となってしまう。

 民主、共産など野党5党は21日、憲法の規定に基づいて衆参両院議長に対し政府が臨時国会を召集するよう求めた。憲法は53条で臨時国会についてこう定めている。

 <内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。いづれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない>

 憲法を専門とする上智大教授、高見勝利さんにこの解釈を尋ねた。すると「注目すべきは『いづれかの−』の後段です」と言う。「『召集を決定しなければならない』という部分は、内閣に義務を課した規定です。要するに、内閣の事情は関係ない。議員の求めに応じて速やかに国会召集を決めること。それ以外に考慮する事項はありません」。冒頭に菅官房長官が挙げた「内閣の事情」は不開催の理由にならないというのだ。

 そして高見さんは、自民党が12年に発表した憲法改正草案に注目してほしいと指摘する。現行憲法では臨時会開催要求があった際の召集期限がないが、草案では「要求があった日から20日以内」と規定。その理由を自民党は、Q&A集で「少数者の権利として定めた以上、きちんと召集されるのは当然」と解説している。高見さんは「これではもう自民党は自己矛盾というほかはないですね」とあきれ顔だ。

 臨時国会の代わりとして、閉会中の委員会や来年1月の通常国会の召集を早める案などが取りざたされているが、高見さんは「憲法の要求からすると、どちらも臨時国会の代替にはなりません。政府の対応は憲法違反と言われても仕方がない」と苦言を呈した。

 ◇「違憲の疑いが濃厚」

 菅官房長官は「臨時国会召集の要求があっても開催しなかった例がある」としている。それは03年と05年だ。

 細川護熙首相の秘書官だった駿河台大教授(比較政治)の成田憲彦さんが、内閣法制局長官の国会答弁を基に解説する。「これまでの政府見解は『合理的な期間を超えない期間内での召集を決定しなければならない』とした上で、『この合理的な期間内に通常国会の召集が見込まれるというような事情があれば憲法違反ではない』と説明しています」

 この考えを当てはめると、03年と05年の事例はどうか。「03年は特別国会が終了した11月27日に要求があり、通常国会が翌年1月19日。空白期間は約50日間でかろうじて『合理的』かもしれない。05年は要求が11月1日で通常国会は翌年1月20日。約80日間も空いているが、特別国会が9月21日から11月1日まで行われており、これは『秋の臨時国会の代替』といえなくもない。違憲かどうかは微妙」という。

 今回の召集要求は10月21日で、来年1月に開会予定の通常国会まで70日間以上も空くうえ、10、11月には国会が全く開かれない事態になる。「これはやはり違憲の疑いが濃厚では」と成田さん。

 臨時国会を開かないのは、国民さらには憲法の軽視である。到底許されるはずがない。
    −−「特集ワイド:いかがなものか 安保法、TPP、内閣改造…でも 臨時国会見送り 「丁寧な説明」どこへ」、『毎日新聞』2015年10月27日(火)付夕刊。

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