覚え書:「特集ワイド:原子力規制委・規制庁 肝心の情報、やぶの中」、『毎日新聞』2015年11月11日(水)付。

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特集ワイド:原子力規制委・規制庁 肝心の情報、やぶの中
毎日新聞 2015年11月11日 東京夕刊

(写真キャプション)原子力規制委員会の田中俊一委員長=喜屋武真之介撮影
(写真キャプション)柏崎刈羽原発の防潮堤。鉄筋コンクリート製で壁の高さは10メートル(海抜15メートル)。この地下をF5断層が走っている=高木昭午撮影

 原子力規制委員会・規制庁で先月、公文書管理法違反が発覚した。情報公開請求のための文書目録とも言える「行政文書ファイル管理簿」を発足以来3年間も作らず、文書管理の組織内点検も怠って「点検した」と内閣府にウソをついた。これらは明白に違法だが、規制委の情報公開には他にも疑問が多い。気になる点をまとめた。【高木昭午】

 ◇電力会社との面談、要旨のみ

 規制委は委員会会合や原発の安全審査、記者会見などをネット中継し、会議資料と議事録も公開している。旧原子力安全・保安院時代と比べて大進歩で、全国どこからでも情報を入手しやすくなった。

 だが公開のはずの安全審査に、実は不透明さが残る。

 「ヒアリング等で議論させていただきたい」。10月9日、東京電力柏崎刈羽原発の安全審査で東電の担当者が答えた。原発敷地内を走る「F5断層」について「活断層などではないと、どのように評価したのか」と規制委側から問われたのに対してだ。

 極めて大事な質問だった。原発の新規制基準は活断層の上に重要な構造物を造ることを禁じている。F5の上には同原発の4号機や防潮堤がある。活断層だと疑われれば廃炉も迫られかねない。

 東電は「約20万年前の地層を見るとF5は動いていない」などと答えたものの、規制基準上、活断層の否定に必要な「12万−13万年前から現在まで動いていない」ことは証明できなかった。そこで議論をヒアリングに回したわけだ。

 ヒアリングは、規制庁と電力側との非公開会議だ。後日に資料と議事要旨が出るが、要旨の記述はA4用紙に2枚程度で規制庁側の指摘が短く書かれるだけ。録音や詳細な議事録は存在しないという。このヒアリングの後、あらためて審査会合が開かれる。本音の議論は闇の中なのだ。

 公文書管理法は行政の意思決定過程などを「合理的に跡付け、検証することができるよう(略)文書を作成」すべきだと定める。内閣府公文書管理委員の三宅弘弁護士は、この規定に基づき「議論の流れが読み取れない要旨だけの公開は法の精神に反する」と批判する。日本弁護士連合会情報問題対策委員の清水勉弁護士も「どんな議論をヒアリングに回し非公開にするか、行政(と電力会社)が自由に決めるのは問題だ。本来は白熱した議論ほど詳細な記録が必要だ」と指摘する。

 ヒアリング以外の、規制庁と電力側との面談記録も要旨だけの公開だ。記述は短いと2行。録音や議事録はない。

 面談記録などの公開は東電福島第1原発事故の反省に基づく。同事故の国会事故調査委員会黒川清委員長)が従来の原子力行政を「透明性を欠き(電力会社の)虜(とりこ)」だったと糾弾したのだ。だから内閣官房は規制委発足前の2012年7月、「(規制)委員や職員が(電力会社などと)面談した場合、原則として内容を公開する」と発表した。

 だが規制委が発足すると、公開は要旨のみになった。黒川委員長は同年12月、規制庁次長に対し、議事録公開が「すごく大事」と訴えたが、規制委は無視し続ける。「多数ある事実確認や打ち合わせまで議事録を作る必要があるのか。要旨で十分だ」というのが担当者の言い分だ。

 ◇審査データ、目立つ「白抜き」

 安全審査には他にも不透明さが残る。公開資料の数値の多くが「商業機密」などを理由に伏せられ読めないのだ。

 例えば13年10月にあった関西電力高浜原発の審査。関電は事故時の原子炉格納容器内の水素濃度分布を試算したが、資料では試算方法や結果は「白抜き」、つまり白く塗りつぶされたようになっている。試算は規制委が「同原発が事故時に水素爆発を起こす危険性は低い」と判断する根拠になった。

 白抜きは各原発の審査でも見られる。旧原子力安全委員会事務局で技術参与を務めた滝谷紘一さんは「試算の妥当性を調べたいのに、できない。水素濃度分布が商業機密とは思えない。規制委は公表させるべきだ」と訴える。

 実は規制委も昨年7月、白抜きの多さを問題視した。中国電力島根原発の審査で更田豊志規制委員らが「試算結果を示すことに何のノウハウがあるのか」「公開文献の引用まで非公開とは」と反発。「公開・非公開の考え方の整理を」と中国電に指示した。

 これに対し中国電など4社は今年6月に「競合会社が有利となると(電力会社や原発メーカーが)判断した情報は非公開」などと回答した。更田委員はあっさり了解した。白抜きの横行は今も続く。

 それでも、白抜きにされる前の資料を持つ規制委が数値や計算を細かく確認してくれているなら、まだよい。

 ところが現実は違う。規制委は昨年5月に「大量の計算を含む申請、たとえば耐震強度評価計算などの(中略)再計算はしない」と決めた。平たくいえば「計算ミスの有無は調べない」との宣言だ。

 「(ミス防止など)品質保証は電力会社の責任。規制基準には各社の品質保証体制を調べる項目があるので再計算は不要」と規制委は言う。だが滝谷さんは「旧原子力安全委や保安院は全部ではないが再計算していたし、電力会社とは別の計算プログラムを使って計算の妥当性を確認もしていた。確認は意図的ごまかしへのプレッシャーにもなっていた。検算しないのは安全審査の後退だ」と憤る。

 原発関連の計算ミスは以前から多い。昨年8月にも関西電力が「高浜原発で計算を誤り、想定する津波の高さを約2メートル低く算出していた」と規制委に報告。その分、防潮堤をかさ上げする事態となった。担当者が気づきながら10年以上隠蔽(いんぺい)した例さえある=表。

 ◇福島などの事故資料を削除

 疑問はまだある。発足3年を翌日に控えた9月18日、規制委は旧保安院などから引き継いだ大量の資料をホームページ(HP)から削除した。福島事故の資料も消えた。

 規制委広報室によると、HPの容量制限が理由だ。「(文書などは)原則として掲載後3年を過ぎた後、削除」というHP利用規約を、田中俊一委員長にも相談して昨年8月に決めたという。掲載後約1年半だった、1960年代からの原発トラブルのデータベースも「データが多く、情報が古い」と同時に消した。

 この削除方針は政府では異例だ。規制庁は環境省の外局だが同省は「一律に年限を決めての削除はしない」。内閣官房は「(HP作成の)コストからみて容量制限が理由の削除は考えにくい」と話す。

 国立国会図書館は毎月、各政府機関のHPをコピーし保存している。規制委は「削除した資料は国会図書館のHPで見られる」と訴える。

 だが、図書館HPに移ったデータベースは検索機能を失い、使いにくくなった。科学ジャーナリスト添田孝史さんは「図書館HPはグーグルなどで外部から検索できず、事前に存在を知らない限り探せない。それに福島事故は重大性から見て資料を永久保存すべきだ」と批判する。

 「原発の安全は国と電力会社におまかせ」と言えた時代は福島事故で終わった。今の原発行政が世論の納得を得るには、最大限に情報を公開するしかないはずなのだが。

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  ◆過去に発覚した原子力関連の主な計算・設計ミス

2005年 日本原燃が核燃料再処理工場など計4施設で設計ミスと発表。旧原子力安全・保安院の指摘で発覚

  07年 日本原燃が核燃料再処理工場で耐震強度計算ミスを発表。日立エンジニアリング(当時)が計算。1996年に気づいたが隠蔽

  08年 東京、中部、中国、東北、北陸、日本原子力発電の6電力などが地震時に配管にかかる力の計算ミスを発表。影響原発17基

  10年 東電が福島第1、第2原発の耐震安全性評価に誤りと発表

  11年 四国電伊方原発起動変圧器の耐震評価で計算ミスを発表

  11年 北海道電が泊原発津波評価と地震動評価に誤りと発表

  11年 日本原燃が核燃料再処理工場などの耐震安全性評価でミスと発表
    −−「特集ワイド:原子力規制委・規制庁 肝心の情報、やぶの中」、『毎日新聞』2015年11月11日(水)付。

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http://mainichi.jp/shimen/news/20151111dde012010002000c.html





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