覚え書:「田中優子の江戸から見ると:国際化・個性化」、『毎日新聞』2015年11月11日(水)付夕刊。

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田中優子の江戸から見ると:国際化・個性化
毎日新聞 2015年11月11日 東京夕刊

 11月12日は旧暦10月1日にあたる。いよいよ冬の始まりである。江戸時代は冬のあいだであっても、さまざまな祭りがある。江戸では歌舞伎の顔見世興行がひと月先にあり、その後に酉(とり)の市もある。寒いのに頑張るなあ。

 ヨーロッパに出張していたことは前回書いた。10月末にしてすでに冬であった。このころは大学祭の時期なので休講が続く。学部長になる前までは毎年、法政大学の国際日本学研究所の同僚たちとともに、シンポジウムを開催する目的でフランスのアルザスにある日本学研究所に行っていた。

 日本学は今や国際的な学問である。法政大学のように国のスーパーグローバル・ユニバーシティーに採択された大学はすでに多くの海外の大学と協定を結んでおり、学生の行き来や教員の研究交流が盛んだ。しかしそれは欧米から学ぶためばかりではない。文学や歴史や美術史を横断する日本学を国際化するためでもある。そして大学は、国際化が進む一方で、個性化が進んでいる。

 大学基準協会という団体がある。大学の自己評価や質保証をサポートする団体だが、しかし文部科学省が作っているわけではない。有志の大学が集まって自分たちで組織化しているのだ。その目的は、大学が外部の基準におのれを合わせることなく、自ら目標を定め、自らその目標を目指して質を高め個性を磨いていく、そのための情報提供や情報交換をする団体なのである。

 私はその理事を務めているのでシンポジウムに出かけるのだが、個々の大学の取り組みは実に面白い。活(い)き活(い)きしている大学は質保証を義務だと思っていない。組織を良くするチャンスだと思っている。国際化も個性化も従来通りに安住していたら実現できないが、しかし外の基準に合わせるものでもない。自らの姿を描き、日々自己決定しながら進むことで自分になれるのだ。(法政大総長)
    −−「田中優子の江戸から見ると:国際化・個性化」、『毎日新聞』2015年11月11日(水)付夕刊。

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http://mainichi.jp/shimen/news/20151111dde012070006000c.html


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