覚え書:「今週の本棚・新刊:『戦場で書く 火野葦平と従軍作家たち』=渡辺考・著」、『毎日新聞』2015年11月01日(日)付。

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今週の本棚・新刊:『戦場で書く 火野葦平と従軍作家たち』=渡辺考・著
毎日新聞 2015年11月01日 東京朝刊

 (NHK出版・2052円)

 「一生がドコカで狂った。どこで狂ったのか」。火野葦平は戦後の代表作『花と龍』の創作ノートにこんな言葉を残したという。

 徴兵された日中戦争の戦場で芥川賞を授与されたのを機に、火野は陸軍報道部にスカウトされた。アジア・太平洋の戦場を兵隊と共に歩きながら書いた。兵隊の視点から、心情に添って描いた『麦と兵隊』をはじめとする作品群は、家族を戦場に送った国民に安心と共感を与えたという。彼を起用した陸軍の思惑通りに、戦争協力の道に引き込まれたのだ。

 NHKディレクターの著者は、20冊の従軍手帳を基に、火野の歩いた戦跡をたどった。さらに火野の戦後にも注目した。多くの文化人が戦争協力に明言を避ける中、戦後15年かけて日本人の戦争責任を考え、苦しみ抜く様子を親族らの証言から描いた。古傷にナイフを突き立て、血を流すような行為だったという。

 「根っこに一貫して流れ続けた正直さは不変だった」。誠実さゆえに、国家と戦争に翻弄(ほんろう)された作家の人生をそう結んでいる。

 火野葦平の苦悩は過去のものではない。言論の自由が危機にあるいま、改めて考えさせられる。(青)
    −−「今週の本棚・新刊:『戦場で書く 火野葦平と従軍作家たち』=渡辺考・著」、『毎日新聞』2015年11月01日(日)付。

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http://mainichi.jp/shimen/news/20151101ddm015070021000c.html


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戦場で書く―火野葦平と従軍作家たち
渡辺 考
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