覚え書:「書評:宇沢弘文のメッセージ 大塚信一 著」、『東京新聞』2015年11月1日(日)付。

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宇沢弘文のメッセージ 大塚信一 著

2015年11月1日


◆人間味ある経済学の真髄
[評者]寺西俊一=一橋大特任教授
 著名な経済学者であった宇沢弘文教授が亡くなられてから早くも一年余りが過ぎた。本書は、宇沢教授による不朽の名著『自動車の社会的費用』(岩波新書、一九七四年)以来、三十冊以上もの著作を送りだしてきた編集者の大塚信一氏(元岩波書店社長)が、感謝と追悼の意を込めて、同教授の生涯と業績を紹介し、そこからの深いメッセージを伝えようとした好著である。
 本書では前出の新書のほか、『近代経済学の再検討』『「豊かな社会」の貧しさ』『「成田」とは何か』『地球温暖化を考える』『日本の教育を考える』『社会的共通資本』などの主な著作が取り上げられ、それらのエッセンスが分かりやすく解説されている。また、それらの出版の経緯を含め、同教授と長年にわたる交友関係を築いてきた著者でしか語ることのできない数々のエピソードが盛り込まれている。
 評者は、本書で紹介されている雑誌『公害研究』(一九九二年から『環境と公害』)の編集同人メンバーとして宇沢教授や著者の大塚氏と接する機会に恵まれてきた。そのなかで今でも強く印象に残っているのは、同誌上(第32巻第4号、二〇〇三年四月刊)で「環境から軍事を問う」という特集を担当したときのことである。宇沢教授は、その巻頭に「ヴェトナム戦争と環境破壊」という玉文を寄せてくださった。そこでは「美しいヴェトナムの自然、社会、そして人間を徹底的に破壊しつくした」アメリカ軍の非人道的、非倫理的な行動が厳しく批判されていた。
 同教授にとって、アメリカ時代に関わられたヴェトナム反戦運動が、その後「近代経済学の再検討」へと向かう重要な契機の一つであった。
 人間の尊厳と自立を何よりも大切にする徹底したヒューマニズムリベラリズム。これが、宇沢教授の経済学と経済思想を貫く真髄(しんずい)である。本書が、そうした「宇沢経済学」ないし「宇沢経済思想」への導きとして、数多くの方々に読まれることを期待したい。
 (集英社新書・799円)
 <おおつか・のぶかず> 元岩波書店社長。著書『河合隼雄 物語を生きる』など。
◆もう1冊
 宇沢弘文内橋克人著『始まっている未来』(岩波書店)。現代の危機を見据え、人間らしく生きるための経済学を展望した対談集。
    −−「書評:宇沢弘文のメッセージ 大塚信一 著」、『東京新聞』2015年11月1日(日)付。

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