覚え書:「書評:フランスという坩堝 ジェラール・ノワリエル 著」、『東京新聞』2015年11月01日(日)付。

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フランスという坩堝 ジェラール・ノワリエル 著

2015年11月1日
 
◆移民と国の距離測る
[評者]清岡智比古=明治大教授
 パリ。マリ系青年が焼きトウモロコシを売り、洗練されたヘジャブ・ファッションの女性が、キッパをかぶった子供とすれ違う。スペイン系のヴァルス首相を擁するフランスは、確かに移民の国だ。
 しかしフランスにおいて、移民現象は長く歴史の外部に放擲(ほうてき)されていた。なるほどユダヤ人などが、個別に考察の対象となることはあった。とはいえ移民現象全体となると、フランスの単一性神話はそれを歴史に組み込むことを拒絶してきたのだ。だがついに一九八八年、その問題を鋭く抉(えぐ)り出した大著が刊行された。著者はここで、故郷喪失、外国人嫌い、統合・同化などを軸としたきわめて多くの論点を通して、移民現象を歴史の中に置き直そうと試みたのだ。ただしそれから四半世紀、この途方もなく多様な集団は今も、フランスの歴史の中で居場所を得ているとは言い難い。フランスの誇る普遍主義も、その実践は限定的なのだ。
 今世紀最大の惨劇といわれるシリア危機は既に数百万の難民を生んでいる。E・トッドの言うように、フランス型の移民政策は、日本の社会文化状況と適合しないかもしれない。しかし人類史とは、畢竟(ひっきょう)移動する民の歴史である。帝国の野心が、格差が、紛争が、その速度に拍車をかけてきた。移民と縁の薄かった現代日本も、来るべき時に備えるため、本書に学ぶことはきわめて多いだろう。
 (大中一彌ほか訳、法政大学出版局・5184円)
 <Gerard Noiriel> 1950年生まれ。フランスの社会史家。
◆もう1冊
 野崎歓ほか著『国境を超える現代ヨーロッパ映画250』(河出書房新社)。欧州への移民難民の状況を映画から読む。
    −−「書評:フランスという坩堝 ジェラール・ノワリエル 著」、『東京新聞』2015年11月01日(日)付。

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