覚え書:「【書く人】400年前へ全身で迫る 『みんな彗星を見ていた 私的キリシタン探訪記』 ノンフィクション作家・星野博美さん(49)」、『東京新聞』2015年10月25日(日)付。

Resize4662

        • -

【書く人】

400年前へ全身で迫る 『みんな彗星を見ていた 私的キリシタン探訪記』 ノンフィクション作家・星野博美さん(49)

2015年10月25日
 
 伊東マンショ千々石ミゲル原マルチノ中浦ジュリアン。約四百年前、「天正遣欧使節」としてローマに渡った少年たちの名前だ。小学生のころ、彼らの肖像画を新聞で見て奇妙さに目がくぎ付けになったという。そうしたごく身近な記憶を出発点に、宣教師とキリシタンの歴史を自らの視点で捉え直した体験をつづる。
 中学からミッション系の学校に通い、キリスト教文化に興味を抱きつつも「食わず嫌い」をしてきた。「私が学生のころは、みんなの目が(キリスト教圏である)欧米にしか向いていないような状態で。そんなことでいいのかと感情的な反発があったんです。だったら私はアジアを見ます、と思ってやってきた。でもキリスト教を理解できないと世界で起きていることは理解しきれない。ここで一度、ちゃんと向き合ってみようと考えたんです」
 そうと決めたら徹底的だ。文献や絵画など、資料をつぶさに調べるだけではなく、伊東マンショらが弾いたとされる弦楽器リュートを習い、当時の音楽にも浸る生活。長崎やスペインを取材で訪ね、痕跡を探し歩いた。「ずっと時間旅行をしているような感覚でしたね。カレンダーを見ても、四百年前を見ているようで、もうすぐ禁教令が出ると身構えたりしていました」
 東西の文化の出会いという前向きなイメージで捉えていたキリシタン史は、想像以上に虐殺の歴史という色彩が強かった。日本人の殉教者は四万人ともいわれる。「ほとんど知られていない空白の五十年間がある。まさかこんなに死を追うことになるとは思ってもみなかった」。実態を知ってからは「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」の世界遺産化を目指す動きにも、違和感を覚えるという。「多くの信徒を殺した歴史を直視せず、ちょっとハイカラな観光地として広めたいだけのように感じます」
 返還期の香港での滞在体験を書いて大宅壮一ノンフィクション賞を受けた『転がる香港に苔(こけ)は生えない』、房総の漁師だったという一族のルーツを追った『コンニャク屋漂流記』など、これまでも独自の切り口で作品を出してきた。題材が変化しても、書く時の軸にはぶれがない。「事実しか書かない。そこにはこだわっていきたいです」
 文芸春秋・二一〇六円。 (中村陽子)
    −−「【書く人】400年前へ全身で迫る 『みんな彗星を見ていた 私的キリシタン探訪記』 ノンフィクション作家・星野博美さん(49)」、『東京新聞』2015年10月25日(日)付。

        • -





http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/kakuhito/list/CK2015102502000197.html








Resize4412