覚え書:「リアルな身体性を表現 『ゾンビ日記 2』 映画監督・押井守さん(64)」、『東京新聞』2015年11月01日(日)付。

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【書く人】

リアルな身体性を表現 『ゾンビ日記 2』 映画監督・押井守さん(64)

2015年11月1日
 
 よみがえった無数の死者が徘徊(はいかい)する都市。そこでゾンビを撃ち続ける主人公の孤独な日々を、独特の語り口でつづった小説『ゾンビ日記』の続編、『ゾンビ日記2 死の舞踏(ダンス・マカブル)』を発表した。
 二〇一二年に出版した前作は男性が主人公のハードボイルド。今回は生き残った女性の視点で描かれる。作中のゾンビは人を襲わず、ひたすら歩き続けるだけの存在だ。主人公は生と死のはざまをさまようゾンビを厳かに弔うように、ストイックに銃を撃ち続ける。ゾンビが発生した理由も、登場人物の名前も明かされない。のっけから内なる自分と向き合うモノローグが続く。お決まりのホラーとはかなり違った趣だ。
 「この年になると生と死について書きたくなる。凶暴なゾンビをやっつけるような内容じゃないから、読者にはとっつきにくいでしょうね」と押井さん。映画やテレビの中は死体があふれ返っているのに、現実は葬式ですら死体を見ることがない。人々が死から遠ざけられている現状への違和感が、シリーズ執筆の契機という。
 実弾を撃つ感触や銃の手入れなどの細かい描写に幅広いうんちくを織り交ぜた文体は、まさに押井節。「虚構の中でリアルな身体性を表現したかった」という。肉体で語る舞踏家の姉と意見を交わし、インスピレーションが湧いた。
 アニメ監督の巨匠として知られるが、小説も十作以上を発表している。「大勢の人が関わる映画は誰が作者かあいまいだけど、小説は自分とイコール。精神的なバランスを取るために書き続けている。あまり売れてないけれど…」と苦笑いする。
 SF作品のほか司馬遼太郎の本を愛読し、いずれ歴史ものを手掛けたいという。知識欲が強くうんちくを仕入れるのが好きだが、資料とにらめっこして書くことには懐疑的だ。「ずっと妄想の世界を描いてきた。僕の場合、うそから始めた方が本当のことが書ける気がする」という。
 今の日本について「皆が面倒なことを考えるのを避けている。知的退廃がひどい」と手厳しく批判。あえて世の中の逆鱗(げきりん)に触れたいという。「社会にけんかを売るくらいの気持ちじゃないと、創作のモチベーションが保てないんですよ」
 角川春樹事務所・一五一二円。 (岡村淳司)
    −−「リアルな身体性を表現 『ゾンビ日記 2』 映画監督・押井守さん(64)」、『東京新聞』2015年11月01日(日)付。

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