覚え書:「学びのみらいを創る:多様性が新しいものを生む 京都大学総長・山極寿一さん」、『朝日新聞』2015年11月18日(水)付。

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学びのみらいを創る:多様性が新しいものを生む 京都大学総長・山極寿一さん
2015年11月18日

京都大学総長・山極寿一さん
 大学を社会や世界に通じた「窓」として、野生的で賢い学生を育てる「WINDOW構想」を掲げている。京大は知性の高い学生が入ってくるが、最近は交渉力が弱いといわれる。外に出て、色んな人に出会って自分を磨かないといけない。コミュニケーション能力は授業だけでなく、外の世界で鍛えられる。

 国際化も重点的にログイン前の続き進めている。数理科学、化学、医学、アジア・社会科学などの分野で、世界トップレベルの大学と連携協定を結び、実際に研究交流を重ねながら学生を交換する。主に大学院以上の学生を対象に「国際共同学位プログラム」も検討している。文理の枠を超えた質の高い教養・共通教育を実践するため、国際高等教育院を設置した。外国人教員を大幅に増やし、英語も重点的に学ぶ。

 英国の教育情報誌の世界大学ランキングで京大は今年88位。昨年は59位だった。これは統計データの集計方法が変わったためだ。欧州、米国、アジアの大学はそれぞれ背景が違う。同じ基準で評価はできないが、大学の特色はひと目でわかり、ランキングは利用できる。それを踏まえて対策を考えていく。

 「グローバルリーダーを育てる」とよく言うが、構想力が重要だ。たくさんの引き出しを持ち、様々な事態に対処する。そして自分の言葉で語り、自分で決定できること。もうひとつは他人を引きつける力。背中を押して、みんなの力を引き出すことがあってもいい。それもグローバル力だ。そういった力を育てるには実践だ。共同作業をしながら、頭だけでなく経験で覚えていく。自分の考えたことを対話をして確かめ、修正していく。これは京大の伝統の対話を根幹とした「自学自習」だ。

 京大は「探検大学」と呼ばれるように、フィールドワークを重視する大学である。誰もみていないものをみることによって新しいものを発見する。チャレンジ精神がベースにある。少人数セミナーの「ポケットゼミ」は、1回生が対象で、研究所や研究科の最先端の学者とじかに接して、実践的な授業を受ける。積み重ねではなく現場をみるところから始めていく。合理的なことや、それがいったい何のためになるのかではなく、まず「おもろい」ことを考える。

 高校までの教育は、正解に早く近づくことを求められる。大学では、時間をかけて未知の問題に気づき、それに対する様々な接近方法というものを考えてみる。答えは複数あるかもしれない。正解をみつけようとしながら様々な問題に気づくことが大事だ。2016年度スタートの「特色入試」では、高校で考える力がどの程度身についているか、将来の構想について問いかけ、伸びしろをみていく。

 人文社会系のあり方が話題だが、自然科学系の人でも国際舞台に立てば専門以外の歴史や哲学など幅広い知識が求められる。しかも教養は、実践的な場面でもこれまで以上に重要になる。そうでないと単なる技術屋になってしまう。日本の国力は大学力であり、知力であるわけだから、教養ある市民を育てなければならない。そこを失ったら日本という小さな島国は、たちまち世界の辺境の国になってしまう。

 大学は熱帯雨林とよく似ている。熱帯雨林は多様性があるから、どんどん新種が生まれてくる。大学も一律の規則で一様になっていたら、イノベーションは生まれないし、新しい学問も生まれない。多様であることを保持しなければダメだ、と気づかされる。

 いまの研究力が、この先も機能するかどうかわからない。大事なことは10年、20年後の研究力だ。「未踏科学」の領域を開拓し、新たな産業をつくり出していかなければならない。そこで活躍するのはいまの現場で働いている人たちだけではなく、学生たちである。高校生かもしれない。そういう人たちを育てていくのが大学の使命である。

 教育の現場は短期的な戦略によって左右されてはいけない。建学の精神を継続しながら、長期的な視野に立って100年先の京大を考えていく。

 (聞き手・教育総合本部長補佐 桜井透)

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 やまぎわ・じゅいち 1952年、東京都出身。京都大学理学部卒、同大学院理学研究科博士後期課程退学。日本モンキーセンター・リサーチフェロー、京都大学霊長類研究所助手、同大学院理学研究科教授などを経て2014年10月から現職。理学博士。ゴリラなど霊長類研究の第一人者。

 <京都大学> 1897(明治30)年に京都帝国大学として創立された総合大学。本部は京都市。総合人間学部、文学部、教育学部、法学部、経済学部、理学部、医学部、薬学部、工学部、農学部の10学部と18の大学院・研究科などがある。学部学生数1万3569人、大学院学生数9216人。

 「WINDOW構想」の最初の「W」は(Wild and Wise)、「I」は(International and Innovative)、「N」は(Natural and Noble)、「D」は(Diverse and Dynamic)、「O」は(Original and Optimistic)、「W」は(Women and Wish)を意味する。
    −−「学びのみらいを創る:多様性が新しいものを生む 京都大学総長・山極寿一さん」、『朝日新聞』2015年11月18日(水)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S12072837.html





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