覚え書:「【書く人】化学の意義、魅力伝える 『世界史を変えた薬』サイエンスライター・佐藤健太郎さん(45)」、『東京新聞』2015年11月22日(日)付。

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【書く人】

化学の意義、魅力伝える 『世界史を変えた薬』サイエンスライター佐藤健太郎さん(45)

2015年11月22日


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 「GFP(緑色蛍光タンパク質)の発見で、ノーベル化学賞を受賞した下村脩(おさむ)さんは『発見は天の導きで、天は私という人間を使って、人類にGFPを与えたのではないかとさえ思う』と言いました。新しい薬を開発することも同じくらい、偶然と幸運が重ならないとできないことなんです」
 いま、日本人の平均寿命は八十歳を超えるが、わずか百年前はそのおよそ半分、四十代の前半に過ぎなかった。カギを握る一つが薬である。だが、現代科学をもっても、薬の開発は「99%が失敗に終わり、新薬を作り出すのはノーベル賞級の難事」という。
 古代から“薬らしきもの”は存在したが、多くは信仰や思い込みに基づく、“効かない”薬だった。薬が本当に多くの命を救い、平均寿命の向上に貢献するのはこの百年余のことである。本書は、こうした病と人類の長い戦いを振り返りつつ、ビタミンC、モルヒネペニシリンエイズ治療薬など、代表的な薬の開発史を追った。
 著者は、国内メーカーで新薬の研究開発に十年以上携わった後、脱サラし、二〇〇七年にサイエンスライターに転じた。きっかけは、自作のウェブサイトにある。複雑な分子化合物の構造に魅せられ、その美しさや合成をめぐるエピソードを紹介する「有機化学美術館」を趣味で始めた。
 生物や天文学など他の理系分野に比べ、化学は地味だと思ってきた。だが、ある時、読者という高校生から一通のメールが届く。「このサイトでおもしろさを知りました。有機化学の道に進むことを決めました」
 会社の合併を経験し、研究者としての人生に迷いを感じていた時期でもある。「自分は十年間、研究ひと筋で来て、臨床試験にたどり着く化合物(薬の卵)すら作れなかった」
 研究し開発する立場よりも、研究や開発の意義と魅力を伝える方が自分には向いているのではないか。「給料も悪くない正社員のイスを捨ててそんなばかなことをする人もいないだろうと思いましたが、心の声に逆らえなくなったんです」。三十七歳の決断だった。
 一〇年には『医薬品クライシス』で科学ジャーナリスト賞を受賞した。「理解されにくい化学の魅力を多くの人に伝えたい」と思っている。
 講談社現代新書・七九九円。 (森本智之)
    −−「【書く人】化学の意義、魅力伝える 『世界史を変えた薬』サイエンスライター佐藤健太郎さん(45)」、『東京新聞』2015年11月22日(日)付。

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