覚え書:「書評:私の1960年代 山本義隆 著」、『東京新聞』2015年11月29日(日)付。

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私の1960年代 山本義隆 著

2015年11月29日
 
◆学問と社会問い続け
[評者]三上治=評論家
 一九六○年代というのは戦後の中でも特異な時代で「黄金の六○年代」として注目されてきた。今年は安保法案(戦争法案)に反対する学生たち(SEALDs(シールズ))の登場もあり、当時の学生運動全学連など)が話題にもなった。その六○年代を物理学の学徒として、また社会や学問の現状に疑問と問いかけを発した運動者として過ごした著者の回顧録だ。
 著者は東大全共闘の代表であったが、これまで全共闘運動に関する取材や発言を拒否してきただけに、注目される証言である。若者たちにかつての経験を伝えたいという思いもあり、回顧を超えて現在にまで視線を届かせた本である。
 本書は、戦争の接近やそのための強権化に反対する六○年代の安保闘争や、平和裏であっても戦争に加担する現状を問うたベトナム反戦の闘争を政治・社会運動の原像として描き出す。
 著者は六○年代から物理学の歴史と社会との関係を論究してきた。これは全共闘運動が大学で営まれていた学問や研究に疑義を呈したからだ。この問いはその後に継続され、本書でも科学や科学技術の意味を起源にまで遡り、その未来にも言及している。日本の近代科学が戦争と切り離せない関係のもとに存続してきた検証から、原子力問題の分析や認識にまで及んでいる。大学への軍事研究の導入も公然化している今、貴重な発言だ。
(金曜日・2268円)
<やまもと・よしたか> 1941年生まれ。科学史家。著書『磁力と重力の発見』など。
◆もう1冊
 西尾漠著『原子力・核・放射線事故の世界史』(七つ森書館)。広島・長崎原爆投下から現在までの原子力事故を総覧。
    −−「書評:私の1960年代 山本義隆 著」、『東京新聞』2015年11月29日(日)付。

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私の1960年代
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