覚え書:「ゴルバチョフ元ソ連大統領 テロ、米の一極支配原因 プーチン政権『専制的』」、『毎日新聞』2015年12月16日(水)付。

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ゴルバチョフソ連大統領
テロ、米の一極支配原因 プーチン政権「専制的」

毎日新聞2015年12月16日 東京朝刊

(写真キャプション)亡き妻ライサさんや娘、孫、ひ孫の写真を眺めるゴルバチョフソ連大統領=モスクワのゴルバチョフ基金で11日、真野森作撮影

 【モスクワ杉尾直哉】毎日新聞のインタビューに応じたゴルバチョフソ連大統領は、中東の紛争や欧米でのテロが続く現状について、「ソ連崩壊後に西側諸国が『冷戦の勝者』として有頂天になり、米国が『唯一の超大国』として一極支配を強いた結果だ」と指摘した。ロシアのプーチン政権については「反民主的で専制的だ。ロシア社会を分断し、悲劇をもたらす可能性がある」と警告した。

 来年はゴルバチョフ氏による旧ソ連の改革「ペレストロイカ」が本格化して30年。来年末にはソ連崩壊から25年の節目を迎える。現在の国内外の情勢は、民主化や冷戦終結に尽力したゴルバチョフ氏には「後退」と映る。

 ゴルバチョフ氏はかつて目指した改革について、国際社会の統合を目指す「新思考外交」が主眼だったと強調。内政面では、「グラスノスチ」(情報公開)を「ペレストロイカの重要な道具」とし、「国家に説明責任を負わせるのが目的だった」と説明した。

 プーチン政権については、「(プーチン氏)個人による権威主義的な統治と反民主的傾向が続いている」と指摘した。冷戦後の国際秩序に関しては、「グローバルな動乱」と表現。米国主導で旧ユーゴスラビア紛争やイラク戦争、「アラブの春」以降のシリア内戦に国連安保理の決議を経ずに軍事介入し混乱を広げたことを挙げた。ロシアの民主化と同時に「国際政治の民主化」も訴えた。

 ウクライナ危機については、エリツィン・ロシア共和国大統領(当時)の主導による「ペレストロイカの挫折とソ連崩壊」が根底にあると指摘した。改革を進めながらもソ連邦の枠組み維持を図ろうとした自身の方針が正しかったとの考えを改めて示した。

 ロシア国内では、ゴルバチョフ氏については、エリツィン氏と並び、「大国ソ連を崩壊させた張本人」との否定的な見方が根強い。「ペレストロイカ時代の思考に戻れ」との訴えが国内で共感を得るのは難しい情勢だ。
    −−「ゴルバチョフソ連大統領 テロ、米の一極支配原因 プーチン政権『専制的』」、『毎日新聞』2015年12月16日(水)付。

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ゴルバチョフソ連大統領
インタビュー要旨

毎日新聞2015年12月16日 東京朝刊


 ゴルバチョフソ連大統領のインタビューの要旨は次の通り。

 −−冷戦終結以降の世界情勢の推移をどう見るか。

 ◆ペレストロイカ期にソ連は「新思考外交」を展開した。イデオロギーや偏見を拒否し、世界を新たな視点でみつめ直し、核軍縮、米中など各国との関係正常化、対話による信頼醸成を目指した。今日の世界は、新思考から離れた新世代の指導者らが、安全保障と協力のシステムを築けず、世界の現実に対応する能力がなかった結果だ。

 ソ連崩壊後、米国は有頂天になり、一極支配を強いた。その結果、世界は安全でなくなり、「世界秩序」でなく「グローバルな動乱」の時代になった。

 ウクライナ紛争の原因はソ連崩壊にある。西側諸国はロシアの利益を無視し、ウクライナを「欧州連合(EU)と北大西洋条約機構NATO)の社会」へと引っ張り込もうとした。新たな冷戦であり、「熱い戦争」が起きる危険性もある。軍事力が再び表舞台に出て、旧ユーゴスラビアイラクアフガニスタンリビア、シリアでの流血を招いた。

 −−何をすべきか。

 ◆過激派組織「イスラム国」(IS)など新たな「登場人物」が脅威となっているが、テロ問題の軍事的な解決はありえない。主要国間の信頼が崩れ、冷戦期の最悪の時代を想起させる。国連安全保障理事会が役割を果たしていない。対話を再開せねばならない。

 核の問題が再び持ち上がっている。核開発が進み、(米露は核先制)使用のドクトリンを持つ。1985年に米ソ首脳が「核戦争には勝者はない」と宣言したときからの後退だ。安保や貧困、環境問題への対処のため、「大きな対話」が必要だ。国連安保理の首脳・閣僚級協議を年1回以上開くべきだ。ウクライナと中東危機の正常化へ向けた「大きな対話」も行うべきだ。対話で主要国間の信頼を回復すること自体、危機解決の支えとなる。

 冷戦と核軍拡競争を終わらせた原則を利用すべきだ。武力行使の否定であり、常に対話を行うことだ。緊張が高まったときですらも対話を中断させず、相手の言い分を聞き、全ての分野で協力する姿勢を持ち、信頼を回復する普遍的原則だ。

 反テロ協定のような合意を至急、準備すべきだ。非合法の武装勢力に絶対に武器を渡してはならないという点を盛り込み、テロへの資金支援や精神的支援を禁ずるべきだ。

 −−現在のプーチン政権をどう見るか。

 ◆ペレストロイカが実現した自由選挙や人権擁護、言論の自由の保障などの民主化政策は、我々が二度と過去へ戻れないほどの深い変革をもたらした。

 だが、この数年間、(自由の)挫折や後退がみられ、危機感を持っている。真の複数政党制や、(三権分立による)チェック・アンド・バランスの構築、任期制限による権力交代は実現していない。いまあるのは、力強くて効率的に機能する国家機関や市民社会ではなく、それに似せた仕組みだ。真の重みも影響力もない。(プーチン氏)個人による権力システムの出現だ。今後、社会を深く、長く分断し、悲劇をもたらす可能性がある。

 これまで我が国の安定を支えたのは、高い石油・天然ガス価格による国庫収入と(プーチン)大統領の高い支持率だった。だが安定は最終目標にならない。安定のために政治停滞という犠牲を強いれば、いずれ行き詰まる。ロシア(国内)と国際政治は袋小路に陥っている。我々はロシアの政治と国際政治をそれぞれ民主化するしか道はない。

 −−日露関係をどう見るか。

 ◆戦後70年たっても平和条約がないのは正常ではない。冷戦の遺物のためだ。その時々の情勢に左右されない切れ目ない対話が必要だ。(91年4月の)訪日で、海部俊樹首相(当時)と制限時間を超えて協議したのを思い出す。胸襟を開き、真に信頼を築こうとしたからだ。相手を恨んだり、最後通告を突きつけたりするような手法ではなく、信頼と協力関係の発展によって、平和条約を結び、最も難しい問題ですら解決できる。
    −−「ゴルバチョフソ連大統領 インタビュー要旨」、『毎日新聞』2015年12月16日(水)付。

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ゴルバチョフ元ソ連大統領:インタビュー要旨 - 毎日新聞

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