覚え書:「書評:水中考古学 井上たかひこ 著」、『東京新聞』2015年11月29日(日)付。

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水中考古学 井上たかひこ 著

2015年11月29日


[評者]坂詰秀一=考古学者
◆歴史を跡づける宝物
 世界文化遺産・富士山をめぐる話題が今夏も賑(にぎ)やかに報道された。他方、長崎県鷹島(たかしま)沖の海底にある国史跡「鷹島神崎(こうざき)遺跡」の元寇(げんこう)沈没船調査が注目を集めた。山の信仰遺跡群に対して海底の沈没船団。この二つの文化遺産は、陸上と海中の相違こそあれ、ともに考古学にとって調査と研究の資(史)料である。多く土中に埋もれている陸上の遺跡に対し、水中の遺跡は、海洋・湖沼・河川の水底に遺る歴史の証跡として欠くことができない物証となっている。
 水中の文化遺産は、かつて欧米人による沈没船の積載財宝の引揚げ目標となっていたが、水中の探査機器の開発は、水中考古学の方法を飛躍的に発展させ、考古学の一分野として確立された。
 海に囲まれている日本の水中考古学は、一部の先覚を除いて出遅れていたが、近年、民間のアジア水中考古学研究所の活躍、文化庁の全国調査により「水中遺跡」の地名表と分布図が作成された。
 本書の著者は、若い日に水中考古学に憧れて先進地で学び、世界各地で数々の水中調査を体験した人。明治二年に房総沖で沈没した黒船ハーマン号を発見し、いまも調査を続けている。このような体験を踏まえて書かれた本書は、沈没船海中都市の発見、トルコ沈没軍艦の調査など、最新情報をとり入れた感興の一書。水中考古学の入門書としても最適である。
中公新書・864円)
<いのうえ・たかひこ> 1943年生まれ。水中考古学者。著書『海の底の考古学』。
◆もう1冊
 岩淵聡文著『文化遺産の眠る海』(化学同人)。水中文化遺産や歴史、海洋戦略などに関わる水中考古学の入門書。
    −−「書評:水中考古学 井上たかひこ 著」、『東京新聞』2015年11月29日(日)付。

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