覚え書:「今週の本棚・この3冊 日米開戦 森山優・選」、『毎日新聞』2015年12月6日(日)付。

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今週の本棚・この3冊
日米開戦 森山優・選

毎日新聞2015年12月6日

森山優(あつし)・選

 <1>日本の近代5 政党から軍部へ 1924−1941(北岡伸一著/中公文庫/1646円)

 <2>真珠湾<奇襲>論争 陰謀論・通告遅延・開戦外交(須藤眞志著/講談社選書メチエ/品切れ)

 <3>山本五十六田中宏巳著/吉川弘文館 人物叢書/2268円)

 今から七十四年前の一九四一(昭和十六)年十二月八日、日本は米・英・オランダとの戦争に踏み切った。当時「大東亜戦争」と呼んだ戦争の始まりである。三年八カ月後の一九四五(昭和二十)年八月、焦土と化した日本はポツダム宣言を受諾。周囲のアジア地域にも大惨禍をもたらした戦争は、日本の惨敗に終わった。

 そもそも、何のために日本は戦争を選んだのか。即答することは難しい。日本政府は「大東亜共栄圏」の建設を戦争目的に掲げたが、当時でも意味不明と思われた妄想のために戦争に踏み切る国家があるだろうか。戦争が政治の延長(クラウゼヴィッツ)だとすれば、平和的な手段で解決できない利害対立が日米間に存在した筈(はず)である。しかし、当時の両国間に、国運を賭してまで争わなければならなかった重大な争点は見いだしにくい。この不可解さを開戦五十周年のシンポジウムで指摘したのが北岡伸一である。氏の議論は今年発売された著作集に収められたが、ここでは戦争へと向かっていく日本の政治の流れを描いた一般書<1>をあげよう。政党政治の全盛期から、一九三〇年代に軍の影響力が増大して行く様子を明快に描写している。時代背景を知るために、まず押さえておきたい。

 八日未明、日本海軍の機動部隊がハワイ空襲を敢行。真珠湾に停泊していたアメリカ太平洋艦隊の主力艦に壊滅的打撃を与えた。作戦の予想以上の成功に加え、アメリカにとっては大失態だったことから、その後さまざまな陰謀論を生むことになる。ルーズベルト大統領はナチス打倒のため欧州戦線に参戦したかったが、国内の孤立主義者の反対に手を焼いていた。彼は日本の攻撃を察知していたが、わざと撃たせて参戦の口実にしたという議論である。常識のレベルでも怪しい話(機動部隊が攻撃隊を発進させた段階で、参戦の大義としては充分。あとは返り討ちにすればいい)だが、これに真正面から答えたのが<2>。周期的に繰り返されてきた陰謀論の系譜を整理し、丁寧に論破している。

 その真珠湾攻撃を主導した山本五十六連合艦隊司令長官の伝記が<3>。日本の戦争研究を作戦史のつぎはぎと喝破し、戦争をトータルにとらえることの重要性を指摘し続けてきた田中宏巳による。とかく声望が高い山本だが、田中は軍事史家の視点から冷静に評価を下している。と同時に、山本が生きた時代を知り、戦争の全体像を俯瞰(ふかん)することもできる良書である。
    −−「今週の本棚・この3冊 日米開戦 森山優・選」、『毎日新聞』2015年12月6日(日)付。

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今週の本棚・この3冊:日米開戦 森山優・選 - 毎日新聞



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