覚え書:「書評:中国残留孤児 70年の孤独 平井美帆 著」、『東京新聞』2015年12月06日(日)付。

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中国残留孤児 70年の孤独 平井美帆 著

2015年12月6日
 
◆祖国日本居場所なく
[評者]勝山泰佑=報道写真家
 「我是誰(ウォシィシェイ)(私は誰ですか)」。祖国日本に帰ったものの、身元が判明しなかった中国残留孤児の声だ。
 中国でお母さん(マーマ)とお父さん(バーバ)に育てられ、普通の家族だと思っていたある日、自分が残置された日本人だと知った<残留孤児>の驚き、苦しみ。その心を推し量ることは我々には到底できない。両親が養父母に変わる。「中国にいるときは普通の幸せあった」と言い、葛藤が読み取れる。
 著者は、三年前の関越道で起きたバス事故の運転手が中国残留孤児の息子であることに注目し、中国残留孤児の生の声に触れようと、東京・台東区にある「中国残留孤児の家」に通う。
 残留孤児たちの実の父母にひと目でも会いたいという切なる思い。今から三十年以上前の帰国した当時、多くが四十歳、五十歳を超えていた。中国にはすでに彼ら自身の家族も生活もあった。
 これは単なる聞き書きではない。「帰国」した中国残留孤児と「棄国」したその家族らに寄り添い、その居場所のない思いと平和への願いを冷静に取材したルポルタージュである。
 雨上がりの午後、評者はあきる野市の「中国帰国者之墓」を訪ねた。一九九○年建立、御影石の墓は、広がる東を向いて物言わず、二百ほどの墓誌銘が肩寄せ合っていた。
集英社・1836円)
 <ひらい・みほ> 1971年生まれ。ノンフィクション作家。著書『獄に消えた狂気』。
◆もう1冊 
 井出孫六著『終わりなき旅』(岩波現代文庫)。残留孤児を生んだ満蒙(まんもう)開拓団の歴史を追い、国策による悲劇を描く。
    −−「書評:中国残留孤児 70年の孤独 平井美帆 著」、『東京新聞』2015年12月06日(日)付。

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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2015120602000185.html








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