覚え書:「書評:微生物が地球をつくった ポール・G・フォーコウスキー 著」、『東京新聞』2015年12月06日(日)付。

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微生物が地球をつくった ポール・G・フォーコウスキー 著 

2015年12月6日
 
◆電子の移動で生命を結ぶ
[評者]中野不二男=ノンフィクション作家・京都大特任教授
 「それまで見たこともなかったような奇妙な信号を記録した」
 トルコ北部の黒海で、光合成を感知する装置で調査をしていた著者たちが気づいたのは、酸素もなければ光も1%しか届かない百メートル以下の水中からきた信号だった。太陽光がほとんどない深さだ。植物プランクトンからではない。ということは、わずかな光で光合成をしているのだから、地球に酸素のなかった頃から棲息(せいそく)している微生物の名残だ…。難解そうなタイトルの本だが、この“奇妙な信号”の話につられて読んでしまった。
 「地球上のすべての生命の原動力となるエネルギーは、つまるところ太陽に由来する」。ようするに生物は太陽からの光子により電子の移動を促して光合成し、自らのカラダを作り、遺伝子を作って増殖してゆく。それを食物連鎖の上位にいる動物が摂取する。ということは、「動物はエネルギーをすべて、光合成する生物に頼っている」。そのうえ私たち動物の体内では、代謝のみならず神経伝達なども、細部を見れば電子の移動で行われている。
 つまり、生命活動の基本は電子の移動にあるようだ。このあたりまで読み進むと、全篇を通じて著者が微生物による光合成や電子の移動にこだわっている理由に合点がいく。ようするに微生物とは、電子の移動を通じて地球上の生命と密接にリンクしているのだ。
 NASA(米国航空宇宙局)には、「惑星保護室」という部署があるという。火星など他の惑星へ探査機を送るとき、地球の微生物がその環境を汚染しないよう、あるいは他の惑星から持ち帰るサンプルが地球の生命に影響を及ぼさないようにするのが任務らしい。黒海の微生物の光合成を知ると、たしかにSFでは片付けられない。
 それにしても、黒海から火星にいたるまで、電子の移動を主役にして、よくもまあ、ここまで緻密な論理を組み立ててきたものである。お見事!
(松浦俊輔訳、青土社・2484円)
 <Paul・G・Falkowski> 米国の海洋生物学者。ラトガース大教授。
◆もう1冊 
 山岸明彦著『生命はいつ、どこで、どのように生まれたのか』(集英社)。地球外生命体の存在や地球最初の生命誕生の謎に迫る。
    −−「書評:微生物が地球をつくった ポール・G・フォーコウスキー 著」、『東京新聞』2015年12月06日(日)付。

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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2015120602000186.html


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