覚え書:「書評:私の戦後70年 北海道新聞社 編著」、『東京新聞』2015年12月20日(日)付。

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私の戦後70年 北海道新聞社 編著

2015年12月20日
 
◆10年後を危ぶむ証言
[評者]沼田良=東洋大教授
 誰もが知る著名人は、どのような思いで戦後七十年を迎えているのか。今年七月から九月にかけて、北海道新聞は夕刊の一面でインタビュー記事を連載した。本書はそれらをまとめた好著である。
 五十九人の多彩な証言はどれも胸を打つ。自衛官の経歴を持つ作家の浅田次郎氏は、この七十年間で誇り、矜持(きょうじ)、廉恥(れんち)を失ったと言う。不戦を貫いた稀有(けう)な平和国家が世界の非核・反戦運動をリードできないのは、この精神が無いからか。
 評論家の内橋克人氏は、「このままでは『侵略なき福祉国家』は消滅するでしょう。市場万能主義が席巻し、政治と経済が劣化するなか、この国は十年後に戦後八十年を迎えられるのか」と危惧する。
 連載時には国会で、違憲の疑いの濃厚な安保法制が審議されていた。記事の行間に緊迫した危機感が漂う。ミュージシャンのShing02氏は、「『違憲』と言われても、どうってことないという風潮にも違和感がある」と語る。
 女優の倍賞千恵子氏は、「まさか戦争なんて起きないよねって思うけど、怖いなという気がする」と心境を吐露する。
 過去のパッケージとされた戦後に替わって、新たな戦前(!)の予兆が迫る。すでに戦後七十年は空虚な幻影になりつつあるのか。その幻影化の一歩手前で、言葉を、思いを、そして生き方を再確認する手掛かりとして本書は有用である。
北海道新聞社・1400円)
 北海道を発行エリアとする日刊ブロック紙。本社・支社・支局の記者が執筆。
◆もう1冊
 岩波書店編集部編『私の「戦後70年談話」』(岩波書店)。先日他界した野坂昭如氏ら戦争体験を持つ四十一人の談話集。
    −−「書評:私の戦後70年 北海道新聞社 編著」、『東京新聞』2015年12月20日(日)付。

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私の戦後70年
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