覚え書:「書評:首塚・胴塚・千人塚 室井康成 著」、『東京新聞』2015年12月20日(日)付。

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首塚・胴塚・千人塚 室井康成 著

2015年12月20日
 
◆非業の死 悼み伝える
[評者]礫川(こいしかわ)全次=在野史家
 東京・大手町に平将門首塚がある。平安時代に敗死した武将の首塚が、なぜ今でも残り、追悼されているのだろうか。
 首塚・胴塚・千人塚とは、塚一般のうち、非業の死を遂げた人物の遺体、あるいはその一部が埋められているものを指す。ただし著者は、実際に埋められているかどうかは問わない。埋められていると信じられているものを調査や考察の対象とする。事実、平将門首塚なるものは、全国に九つもあるらしい。
 過去の戦乱や戦死者の記憶をたどり、その思いを汲(く)みとるという本書のテーマを示した後、蘇我入鹿(そがのいるか)、平敦盛楠木正成新田義貞井伊直弼(なおすけ)、西郷隆盛といった客死した人物について、現地に足を運んだ研究成果が示される。もちろん著者の考察は、無名の将兵や先の空襲の死者の塚にも及んでおり、塚を通して眺めた日本史といった趣がある。
 それにしても、なぜこの日本では斬首・晒(さら)し首・試し斬りという特異な処刑が発達したのか。それにともない、遺体の一部を埋めた塚を伝承し畏敬する民間信仰も発達したのだが、本書を一読し、日本人の追悼・追想の原型の一つは、まさしく塚信仰にあるという感を強くした。
 巻末に四十頁(ページ)にわたる「首塚・胴塚・千人塚等の一覧」がある。文献欄も充実して有益。「十三塚」論を含め、塚の本質を論じた本も引き続き望みたい。
洋泉社・1944円)
 <むろい・こうせい> 1976年生まれ。民俗史家。著書『柳田国男民俗学構想』。
◆もう1冊
 清水克行著『耳鼻削(そ)ぎの日本史』(洋泉社歴史新書y)。刑罰や戦功証としての耳鼻削ぎの歴史と耳塚・鼻塚の調査。
    −−「書評:首塚・胴塚・千人塚 室井康成 著」、『東京新聞』2015年12月20日(日)付。

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